舌骨下筋群とは|4つの筋肉の起始停止・神経支配と嚥下・二重あごとの関わり

舌骨下筋群

舌骨下筋群の作用と役割(起始停止・神経支配・筋トレメニューなどを徹底解剖)

舌骨下筋群(ぜっこつかきんぐん)とは、喉仏の上部にある舌骨を動かす4つの筋肉の総称です。具体的には胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋・甲状舌骨筋・胸骨甲状筋の4つを指します。

これらの筋肉は、舌骨を引き下げて首を前に倒したり、物を飲み込む嚥下(えんげ)動作を補助したりと、私たちが普段意識せずに行っている動作に欠かせない役割を担っています。

この記事では、舌骨下筋群の解剖学的な構造、4つの筋肉それぞれの起始停止と働き、頸神経ワナによる神経支配、そして嚥下機能や二重あごとの関わりまで、わかりやすく解説します。

英語名称

infrahyoid muscles(インフラハイヨッド・マッスルズ)

「infra-(〜の下に)」+「hyoid(舌骨)」で「舌骨の下にある筋」を意味します。

舌骨下筋群の解説

舌骨下筋群(ぜっこつかきんぐん)とは、舌骨の下方を走行する4つの筋肉の総称です。

  1. 胸骨舌骨筋(きょうこつぜっこつきん):胸骨柄から起始し、舌骨体に停止
  2. 肩甲舌骨筋(けんこうぜっこつきん):肩甲切痕から起始し、舌骨体下縁外側部に停止
  3. 甲状舌骨筋(こうじょうぜっこつきん):甲状軟骨の斜線部から起始し、舌骨体・舌骨大角に停止
  4. 胸骨甲状筋(きょうこつこうじょうきん):胸骨柄後面・第1肋軟骨から起始し、甲状軟骨の斜線部に停止

舌骨下筋群は主に開口運動(口を開ける動き)の際に、舌骨の位置を固定して舌骨上筋群の働きを補助する役割を持っています。また、舌骨を引き下げて顎を引くような動作の補助筋としての役割もあります。

例え話で言うと、舌骨下筋群は「舌骨という小さな浮き輪を、下から引っ張って固定するロープ」のような働きをしています。この固定があるからこそ、上にある舌骨上筋群が下顎を引き下げたり、舌の動きを安定させたりできるのです。

舌骨は、人体の中で他の骨と直接関節を作らない唯一の骨で、筋肉と靭帯だけで吊り下げられているという特殊な骨です。だからこそ、上下の筋群(舌骨上筋群と舌骨下筋群)が連携してその位置をコントロールしている、というのが特徴です。

舌骨下筋群を構成する4つの筋肉

①胸骨舌骨筋(きょうこつぜっこつきん)

舌骨下筋群の中で最も表層(皮膚に近い側)にある薄い帯状の筋肉です。

起始:胸骨柄、胸鎖関節包、鎖骨の胸骨端
停止:舌骨体
作用:舌骨を引き下げる
英語名:sternohyoid muscle

喉仏のすぐ脇を縦に走行しており、首を細く引き締めて見せる筋肉の一つでもあります。

②肩甲舌骨筋(けんこうぜっこつきん)

舌骨下筋群の中でも珍しい構造を持つ筋肉で、上腹(じょうふく)と下腹(かふく)の2つの筋腹が中間腱でつながった「二腹筋」です。

起始(下腹):肩甲切痕、肩甲横靭帯
停止(上腹):舌骨体下縁の外側部
作用:舌骨を下後方に引く
英語名:omohyoid muscle

肩甲骨から舌骨まで伸びているため、姿勢が悪いと肩こりにも影響することがある筋肉です。

③甲状舌骨筋(こうじょうぜっこつきん)

胸骨甲状筋の上方に続く短い筋肉です。

起始:甲状軟骨の斜線部
停止:舌骨体および舌骨大角の後面
作用:舌骨を引き下げる。舌骨が固定されると甲状軟骨を引き上げる
英語名:thyrohyoid muscle

嚥下時に喉頭を持ち上げる動作にも関与する重要な筋肉です。

④胸骨甲状筋(きょうこつこうじょうきん)

胸骨舌骨筋の深層にある筋肉で、甲状腺の前を覆うように走行しています。

起始:胸骨柄後面、第1肋軟骨
停止:甲状軟骨の斜線部
作用:甲状軟骨を引き下げる
英語名:sternothyroid muscle

発声時の喉頭の位置調整にも関わっています。

舌骨下筋群を支配する神経

頸神経叢の頸神経ワナ(C1〜C3)

舌骨下筋群はすべて頸神経ワナ(けいしんけいワナ/ansa cervicalis)によって支配されています。頸神経ワナは、頸神経叢のC1〜C3の神経線維が輪状にループを作って形成される神経で、その枝が舌骨下筋群に分布しています。

なお、甲状舌骨筋だけは舌下神経の枝のように見えますが、実際にはC1〜C2の線維が舌下神経に一旦合流してから再び分かれたものとされており、機能的には頸神経ワナ系統と考えられています。

舌骨下筋群の役割|嚥下メカニズムと開口運動

舌骨下筋群の最も重要な機能の一つが、嚥下(飲み込み)のサポートです。

嚥下時には、まず舌骨上筋群が働いて舌骨と喉頭(甲状軟骨を含む)が前上方に引き上げられます。これにより気道が閉じ、食道への通り道が確保されます。続いて、嚥下が完了する際に舌骨下筋群が働き、舌骨と喉頭を元の位置に引き下げます。

つまり、舌骨上筋群と舌骨下筋群は互いに逆方向の働きをする協調筋であり、両者のバランスが嚥下の円滑さを決めているのです。加齢でこのバランスが崩れると、いわゆる嚥下障害(食べ物を飲み込みにくい、むせやすい)が起こりやすくなります。

また、開口運動(口を開ける動作)の際には、舌骨下筋群が舌骨を固定することで、舌骨上筋群が効率よく下顎を引き下げられる土台を作ります。

日常生活動作

首を前に倒す動きや物を飲み込む動作などに関与します。

より具体的には、次のような場面で舌骨下筋群が活躍しています。

・食事中の嚥下動作(飲み込み)
会話・発声(喉頭の位置調整)
口を開ける動作(あくび・大きな会話)
首を前に倒す動作
うがいや咳(喉頭の動き)
歌唱時の声量・音域コントロール

声楽家やボイストレーナーの間では、舌骨周りの筋肉の柔軟性が発声の質に大きく影響することが知られています。

舌骨下筋群を意識するエクササイズ

舌骨下筋群は意識しにくい筋肉ですが、ここを動かすことで二重あごの予防嚥下機能の維持首回りのリフトアップなどの効果が期待できます。

①あご引きエクササイズ(チンタック)

椅子に座って背筋を伸ばし、あごを後ろに引いて二重あごを作るような姿勢を5〜10秒キープします。これを10回繰り返します。胸骨舌骨筋・胸骨甲状筋を中心とした前頸部の筋群を効率よく刺激できます。

ストレートネック(スマホ首)の改善にもつながる定番エクササイズです。

②舌出しエクササイズ

舌を限界まで前に突き出し、5秒キープ。上下左右にも舌を動かします。舌骨周辺の筋肉が連動して動くため、舌骨下筋群と舌骨上筋群の両方を活性化できます。

③発声エクササイズ(あ・い・う・え・お)

大きな声で「あ・い・う・え・お」と発音します。特に「い」と「う」では喉頭が大きく動くため、舌骨下筋群への刺激になります。1日5〜10セットを目安に。

④嚥下エクササイズ(ごっくん体操)

意識的に唾液を飲み込む動作を10回繰り返します。嚥下時に舌骨と喉頭が動く感覚を確かめながら行いましょう。嚥下機能の維持・向上に有効とされ、高齢者の誤嚥予防にも取り入れられています。

注意点:首には太い血管や神経、甲状腺などのデリケートな組織があります。強く押したり揉んだりするのは避け、無理のない範囲で行ってください。

舌骨下筋群を整えるメリット

舌骨下筋群を意識的に動かすことで、次のような効果が期待できます。

嚥下機能の維持・向上(誤嚥予防)
二重あごの予防・改善
フェイスラインの引き締め
ストレートネック(スマホ首)の改善
発声の安定
首こり・肩こりの軽減

特に高齢者の嚥下障害は、誤嚥性肺炎のリスクにつながる重要な問題です。日常的に舌骨下筋群を意識して動かすことが、健康寿命の延伸にもつながります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 舌骨下筋群と舌骨上筋群はどう違うのですか?
舌骨を境に、上にある筋群が舌骨上筋群(顎二腹筋・茎突舌骨筋・顎舌骨筋・オトガイ舌骨筋)、下にある筋群が舌骨下筋群です。両者は互いに逆方向に働く協調筋で、嚥下や開口運動を一緒に担っています。

Q2. 舌骨下筋群が衰えるとどうなりますか?
嚥下機能の低下(むせやすくなる)二重あごの目立ちフェイスラインのたるみ誤嚥のリスク上昇などが起こりやすくなります。加齢とともに衰えやすい筋群なので、日常的に意識して動かすことが大切です。

Q3. 舌骨下筋群はどうやって触ればわかりますか?
喉仏(甲状軟骨)の左右にある縦に走る薄い筋が胸骨舌骨筋です。あごを引いて唾を飲み込むと、その動きを指で感じ取れます。なお、首の前面には太い血管や神経があるので、強く押さないでください。

Q4. 二重あごは舌骨下筋群と関係ありますか?
はい、深く関係しています。舌骨下筋群が衰えると舌骨の位置が下がり、あご下の脂肪が目立ちやすくなります。チンタック(あご引き)などのエクササイズで前頸部全体を引き締めることが二重あご対策になります。

Q5. 嚥下障害が気になる場合はどうすればいい?
食事中によくむせる、飲み込みにくい、声がかすれるなどの症状が続く場合は、耳鼻咽喉科やリハビリテーション科、嚥下外来を受診してください。早期に評価して、適切な嚥下訓練を始めることが大切です。

まとめ

舌骨下筋群について解説してきた内容を整理します。

・舌骨下筋群は胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋・甲状舌骨筋・胸骨甲状筋の4つから構成される
・主な作用は舌骨や甲状軟骨を引き下げること
・支配神経はすべて頸神経ワナ(C1〜C3)
嚥下や開口運動で舌骨上筋群と協調して働く
・衰えると嚥下障害・二重あご・フェイスラインのたるみの原因に
・チンタックや嚥下エクササイズで日常的に意識的に動かせる

舌骨下筋群は普段意識しない筋肉ですが、食事・会話・発声・首の動きなど、生活の基盤を支える重要な筋群です。特に加齢とともに衰えやすい部位なので、日常的なケアを心がけましょう。

その他の頭部・頚部の筋肉

表情筋側頭筋咬筋内側翼突筋外側翼突筋椎前筋群後頭下筋群胸鎖乳突筋斜角筋群(前斜角筋中斜角筋後斜角筋)・頭板状筋頸板状筋

参考文献・出典

・クインテッセンス出版「異事増殖大事典|舌骨下筋群」https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/occlusion/20181

・船戸和弥のホームページ「胸部の筋(A04)」https://funatoya.com/funatoka/anatomy/A04/A04_2.html

・日本耳鼻咽喉科学会誌「嚥下時の舌骨上筋群・舌骨下筋群の筋活動」https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/53/4/53_4_246/_pdf

・筋肉研究所 筋肉動画図鑑「胸骨舌骨筋/甲状舌骨筋」https://www.kinken.org/k10460.html

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