前斜角筋とは|起始停止・神経支配と斜角筋症候群・腕のしびれの関係

前斜角筋

前斜角筋の作用と役割(起始停止・神経支配・筋トレメニューなどを徹底解剖)

前斜角筋(ぜんしゃかくきん)とは中斜角筋(ちゅうしゃかくきん)と共に肋骨を引き上げ、息を吸うときに使われる筋肉です。前斜角筋は頚椎(けいつい)を屈曲したり側屈する働きがあります。

前斜角筋は斜角筋群(前斜角筋・中斜角筋・後斜角筋)を構成する筋肉の一つで、特に重要なのが、前斜角筋と中斜角筋の間に腕神経叢と鎖骨下動脈が通る「斜角筋隙(しゃかくきんげき)」という構造を作り出している点です。デスクワークやスマホ姿勢で前斜角筋が過緊張すると、ここを通る神経・血管が圧迫されて斜角筋症候群(胸郭出口症候群の一型)を引き起こすことがあります。

この記事では、前斜角筋の起始停止、神経支配、呼吸補助筋としての役割、腕のしびれとの関わり、セルフケアまで、解剖学的根拠とともに解説します。

英語名称

scalenus anterior muscle (スカリナス・アンティアリア・マッスル)

または「anterior scalene muscle」とも表記されます。

前斜角筋の解説

前斜角筋は頸椎の前外側にある筋肉で呼吸補助筋の一つです。頸椎前面(横突起前結節)から第1肋骨に停止するため、息を吸う際に第1肋骨を引き上げて胸郭を広げる働きをします。

また、運動動作においては頸椎の屈曲と側屈の作用を持ちます。両側が同時に収縮すると頸椎を屈曲、片側が収縮すると同側へ側屈させます。

例え話で言うと、前斜角筋は「息を吸うためのリフター」のような存在です。第1肋骨を上に引っ張り上げることで、胸郭の中の空間を広げ、肺に空気を取り込みやすくしています。

何らかの影響で、前斜角筋と中斜角筋に緊張が生ずると、その間を走行している腕神経叢を圧迫してしまい、腕や手に痺れを生ずることがあります。これを「斜角筋症候群(しゃかくきんしょうこうぐん)」と呼び、胸郭出口症候群の一型に分類されます。

なで肩の女性や、長時間のデスクワーク、重い荷物を肩に下げる習慣のある方に多く見られる症状です。

起始

C3(または4)~C6(または7)の頸椎横突起の前結節

停止

第一肋骨の前斜角筋結節(リスフラン結節)

「リスフラン結節」とも呼ばれるこの隆起部分は、フランス人解剖学者リスフランにちなんで名付けられました。

前斜角筋の主な働き

前斜角筋の作用:頚椎の屈曲 前斜角筋の作用:頚椎の側屈

頚椎の屈曲と側屈の作用を持ちますが、その他に第1肋骨を引き上げる働きを持っています。第1肋骨が挙上することで胸郭が拡張し、胸式呼吸をスムーズに行うことができます。

前斜角筋の作用は、固定される側によって変わります。

・頸椎が固定されているとき:第1肋骨を引き上げて吸気を補助
・肋骨が固定されているとき:両側で頚部屈曲、片側で同側への側屈

前斜角筋を支配する神経

頚神経叢及び腕神経叢(C5または4~C7)

頚神経叢と腕神経叢の筋枝から枝が出て、前斜角筋を支配しています。

日常生活動作

主に首を前や横に曲げるときに作用します。また、胸郭を広げる作用を持つので吸息動作の補助をします。

具体的には次のような場面で活躍します。

・深呼吸・あくび
・会話・歌唱(発声時の呼吸補助)
・首を前に倒す、横に倒す動作
・運動時の激しい呼吸
・ストレス・緊張時の浅い呼吸

特に胸式呼吸が習慣化している方は、前斜角筋を常に酷使していると考えられます。

スポーツ動作

激しい運動を行うときなど呼吸動作を補助します。ランニング、水泳、登山などの持久系スポーツでは、酸素需要が高まり前斜角筋への負担が大きくなります。

関連する疾患

斜角筋症候群、エルブ麻痺(上位型腕神経叢麻痺)、クルムプケ麻痺(下位型腕神経叢麻痺)、第1肋骨疲労骨折など

① 斜角筋症候群(胸郭出口症候群の一型)

前斜角筋と中斜角筋の間(斜角筋隙)で腕神経叢・鎖骨下動脈が圧迫される疾患です。

主な症状:
・腕や手のしびれ・痛み・冷感
・握力低下
・つり革を持つなど腕を上げる動作で症状悪化
・肩から腕にかけての重だるさ

② エルブ麻痺・クルムプケ麻痺

腕神経叢の損傷による麻痺で、出産時の損傷や外傷で生じることがあります。エルブ麻痺は上位型(C5〜C6由来)、クルムプケ麻痺は下位型(C8〜T1由来)で、それぞれ症状が異なります。

③ 第1肋骨疲労骨折

前斜角筋の停止部である第1肋骨が、反復的な引っ張り力で疲労骨折することがあります。野球の投球動作や激しい呼吸を伴う競技で見られます。

④ 首こり・トリガーポイントによる関連痛

前斜角筋にトリガーポイントができると、上腕・前腕・手指・胸部などに関連痛が放散することがあります。

前斜角筋のセルフケア

①前斜角筋ストレッチ

椅子に座って背筋を伸ばし、伸ばしたい側の手を背中に回します。反対側の手で頭を反対方向に倒し、あごを軽く上げて反対方向を向くと前斜角筋がしっかり伸びます。15〜30秒キープ、左右行います。

②腹式呼吸

仰向けに寝てお腹に手を置き、お腹を膨らませるように深呼吸します。腹式呼吸が習慣化すると、前斜角筋を含む呼吸補助筋への負担が減ります。

③姿勢の改善

頭が前に出る姿勢(前方頭位)は前斜角筋を緊張させます。デスクワーク中はモニター高を目線に合わせ、こまめに姿勢をリセット。

注意点:前斜角筋のすぐ近くを腕神経叢・鎖骨下動脈・頸動脈が走行しています。強く押すとしびれ・めまい・不整脈を引き起こす危険があるので、自己流の強圧マッサージは絶対に避けてください。腕のしびれが続く場合は整形外科・ペインクリニックを受診してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 前斜角筋と中斜角筋の違いは?
前斜角筋は頚椎横突起の前結節から起こり第1肋骨の前斜角筋結節に停止します。中斜角筋は後結節から起こり、第1肋骨の前斜角筋結節の後方に停止します。両者の間に「斜角筋隙」ができ、腕神経叢と鎖骨下動脈が通ります。

Q2. 斜角筋症候群の症状は?
腕や手のしびれ、冷感、握力低下、肩から腕の重だるさなどが主な症状です。特に「つり革を持つ」「重い荷物を持つ」など腕を上げる動作で悪化します。

Q3. 前斜角筋が硬いとどうなる?
首こり・呼吸の浅さ・腕のしびれ・頭痛の原因になります。トリガーポイントから手指や胸部に関連痛が出ることもあります。

Q4. リスフラン結節とは?
第1肋骨の上面にある小さな隆起で、前斜角筋が停止する部位です。フランスの解剖学者リスフランにちなんで名付けられました。

Q5. 前斜角筋のストレッチで気をつけることは?
ストレッチ自体は安全ですが、強い圧をかけるマッサージは厳禁です。近くを通る神経・血管を圧迫するとしびれ・めまいを引き起こす危険があります。

まとめ

前斜角筋について解説してきた内容を整理します。

・C3〜C6頚椎横突起前結節から起こり、第1肋骨のリスフラン結節(前斜角筋結節)に停止
・主な作用は頚部の屈曲・側屈と、第1肋骨の挙上(呼吸補助)
・支配神経は頚神経叢・腕神経叢(C4〜C7)
・中斜角筋との間に斜角筋隙を作り、腕神経叢・鎖骨下動脈が通る
・過緊張は斜角筋症候群を引き起こし、腕のしびれの原因に
・強圧マッサージは厳禁、優しいストレッチと腹式呼吸が基本

前斜角筋は呼吸と腕の神経の通り道に深く関わる重要な筋肉です。腕のしびれや慢性的な首こりがある方は、まず姿勢と呼吸を見直してみてください。

その他の頭部・頚部の筋肉

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暗記チェック

前斜角筋クイズ(全7問)

起始・停止・作用などを4択で確認。覚えたかチェックしよう。

参考文献・出典

・療法士活性化委員会「前斜角筋の解剖と機能を徹底解説」https://lts-seminar.jp/2025/03/20/uchikawa-37/

・セラピストプラス「斜角筋とはどんな筋肉?」https://co-medical.mynavi.jp/

・ビタカイン製薬「斜角筋のトリガーポイント」https://triggerpoint-net.vitacain.co.jp/

・筋肉研究所「前斜角筋」https://www.kinken.org/k10520.html

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