長掌筋とは|起始停止・神経支配と先天的欠損・腱移植材料の解説

長掌筋

長掌筋の作用と役割(起始停止・神経支配・筋トレメニューなどを徹底解剖)

長掌筋(ちょうしょうきん)とは手関節の屈曲の際に作用する筋肉です。英語では「palmaris longus muscle」と呼ばれ、約4〜13%の人で先天的に欠損するというユニークな特徴を持つ筋です。

長掌筋の腱は、拳を握りながら手首を曲げたときに手首の中央部に浮き出るのですぐ見分けがつきます。形成外科では腱移植材料として重宝される、臨床的に極めて重要な筋肉でもあります。

この記事では、次のような疑問にお答えします。

長掌筋の正しい起始停止・作用は?
自分に長掌筋はあるかチェック方法は?
腱移植材料として使われる理由は?
欠損していても問題ない?

例え話で言うと、長掌筋は「手のひらの皮を引き締める紐」のような存在です。手掌腱膜を緊張させることで、手のひらの皮膚を引き締め、物を握る時に手のひらの血管や神経を守る役割を担っています。

英語名称

palmaris longus muscle(パルメィリス・ロンガス・マッスル)

「palmaris(手のひらの)」+「longus(長い)」で構成された名称です。

長掌筋の解説

長掌筋(ちょうしょうきん)は前腕部前面の中央部を走行する前腕屈筋群の一つです。

長掌筋は上腕骨の内側上顆から起始し、手掌腱膜に停止します。

解剖学的な位置の関係で、橈側手根屈筋(とうそくしゅこんくっきん)、尺側手根屈筋(しゃくそくしゅこんくっきん)がただ単に手首を屈曲するだけではなく、手首を橈屈・尺屈に関与するのに対し、長掌筋は手首の中央を通過しているため主に手関節の掌屈(屈曲)させる働きに関与します。

またほんのわずかではありますが肘関節屈曲にも関与します。

その他に手掌腱膜を緊張させ、重い物を保持したときに手のひらの血管や神経を保護する役目も果たしています。

この筋肉が先天的に欠損する例は比較的多く、その欠損率は約4〜13%と言われています。

長掌筋をはじめとする橈側手根屈筋尺側手根屈筋などの前腕屈筋群を鍛えるにはダンベルやバーベルを握って行うリストカール(手首の巻き込み)が最も有効なエクササイズと言えます。

長掌筋をストレッチするには手関節が背屈(伸展)、肘関節を伸展させることで最大限にストレッチさせることができます。

長掌筋の有無セルフチェック方法

あなたに長掌筋があるかどうかは、簡単にチェックできます:

チェック方法
1. 手のひらを上に向ける
2. 親指と小指の腹を合わせる(OKサインに近い形)
3. 手首を軽く手のひら側に曲げる
4. 手首の中央に細い腱が浮き出れば長掌筋あり

腱が見えない場合は、片側または両側で長掌筋が欠損している可能性があります。日本人の約5%に欠損が見られるとされ、人種・性別・利き手によって割合が異なります。

ただし、欠損していても日常生活には全く支障がありません。橈側手根屈筋・尺側手根屈筋など他の前腕屈筋が補ってくれるからです。

長掌筋は腱移植材料の宝庫|臨床的重要性

長掌筋は形成外科・整形外科の世界では「腱移植材料の第一選択」として重宝されています。

なぜ腱移植に使われるのか
長く細い腱で、移植材料に最適な形状
機能上必要不可欠ではない(他の屈筋が代償)
採取が容易で、皮膚切開も最小限
合併症が少ない

移植に使われるケース
母指CM関節形成術(変形性関節症の治療)
側副靭帯損傷の再建(肘・指)
屈筋腱断裂の修復
顔面神経麻痺の再建手術
眼瞼下垂の手術

つまり、長掌筋は「他の場所で代用が利かない時の救世主」として、医療現場で広く活躍しています。手のひらに見える小さな腱が、誰かの機能回復に使われる可能性を秘めているのです。

起始

上腕骨の内側上顆(ないそくじょうか)

橈側手根屈筋・尺側手根屈筋などと同じく内側上顆から起こります。

停止

手掌腱膜(しゅしょうけんまく)

他の前腕屈筋は中手骨や手根骨に停止しますが、長掌筋だけは手のひらの皮下にある腱膜(手掌腱膜)に停止する点が特殊です。

長掌筋の主な働き

手関節の掌屈 肘関節の屈曲

長掌筋は手関節において掌屈(屈曲)に大きく貢献します。また、わずかですが肘関節屈曲動作にも関与します。

主な役割:

手関節の掌屈(補助役)
手掌腱膜の緊張(手のひら保護)
肘関節の屈曲(わずかに)
握る時の手のひらの血管・神経保護

長掌筋を支配する神経

正中(せいちゅう)神経(C7〜T1)

橈側手根屈筋・円回内筋などと同じく正中神経支配です。

日常生活動作

主に手首を曲げる動作(掌屈)に関与します。また長掌筋は肘関節・手関節をまたがっている二関節筋でもあるので肘関節の屈曲動作にも僅かに貢献します。

具体的には:

物を握る動作(手掌腱膜の緊張で手のひらを守る)
手首を曲げる動作
重い物を持ち上げる動作
タオルを絞る動作

日常生活において、橈側手根屈筋ほど強力ではありませんが、補助筋として活躍しています。

スポーツ動作

野球の投球動作やバレーボールのスパイクなどのスポーツに大きく貢献します。

特に重要なスポーツ:
野球(投球時の手関節掌屈)
バレーボール(スパイクのインパクト)
テニス(フォアハンドのスナップ)
ゴルフ(インパクト時のグリップ安定)
ボルダリング・クライミング(握力の維持)

関連する疾患

長掌筋腱断裂(ちょうしょうきんけんだんれつ)、正中神経麻痺(せいちゅうしんけいまひ)、投球障害肘(とうきゅうしょうがいひじ)、屈筋腱損傷(くっきんけんそんしょう)、伸筋腱損傷(しんきんけんそんしょう)、陳旧性肘関節不安定症(ちんきゅうせいちゅうかんせつふあんていしょう)

① ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)

長掌筋も内側上顆から起こるため、ゴルフ肘の関連筋の一つ。橈側手根屈筋・円回内筋ほど主要ではありませんが、影響を受けます。

② 長掌筋腱断裂

腱が外傷で断裂することがあります。機能上の影響は少ないですが、整形外科での評価が必要。

③ 正中神経麻痺

正中神経の損傷で長掌筋を含む正中神経支配の前腕屈筋が同時に麻痺します。

④ デュピュイトラン拘縮

手掌腱膜(長掌筋の停止部)に異常な繊維化が起こり、手指が伸びにくくなる疾患。長掌筋と直接の関連はありませんが、停止部の手掌腱膜の病変として知られます。

代表的なウエイトトレーニングとストレッチ

長掌筋のストレッチ方法

基本ストレッチ
1. 腕を前に伸ばし、手のひらを下向きに
2. 反対の手で指先を持ち、手の甲側に反らす
3. 同時に肘を伸ばしきる
4. 15〜30秒キープ×左右

このストレッチは長掌筋だけでなく、橈側手根屈筋・尺側手根屈筋も同時に伸ばせるため、前腕屈筋群全体のケアとして活用できます。

セルフマッサージ
前腕掌側の中央を、反対の親指でゆっくり圧迫しながら手首方向に流すと、長掌筋の緊張が緩みます。PC作業の合間に行うのもおすすめ。

よくある質問(FAQ)

Q1. 長掌筋がない人がいるってホント?
はい、約4〜13%の人で先天的に欠損します。片側のみ・両側欠損のケースもありますが、日常生活には全く影響しません

Q2. 長掌筋の有無はどうやって確認する?
親指と小指の腹を合わせて手首を軽く掌屈すると、手首の中央に細い腱が浮き出れば長掌筋あり。見えなければ欠損の可能性があります。

Q3. なぜ長掌筋は腱移植によく使われる?
長く細い腱で形状が理想的、機能上必要不可欠でない、採取が容易、合併症が少ないため。母指CM関節形成術や靭帯再建術などで重宝されます。

Q4. 長掌筋を鍛える専用種目はある?
単独種目はありませんが、リストカールで前腕屈筋群と一緒に鍛えられます。長掌筋単独で意識する必要はあまりありません。

Q5. ゴルフ肘に長掌筋は関係する?
長掌筋も内側上顆から起こるため関連はありますが、ゴルフ肘の主原因は橈側手根屈筋・円回内筋。長掌筋単独の問題は少ないです。

Q6. 長掌筋がないと握力が弱くなる?
いいえ、握力は主に深指屈筋・浅指屈筋・橈側手根屈筋が担います。長掌筋は補助的な役割なので、欠損していても握力には影響しません。

まとめ

長掌筋について解説してきた内容を整理します。

上腕骨内側上顆から起こり、手掌腱膜に停止
・前腕屈筋群の中で手首中央に浮き出る腱が特徴
・主作用は手関節掌屈の補助+手掌腱膜の緊張
・支配神経は正中神経(C7〜T1)
約4〜13%の人で先天的に欠損
腱移植材料の第一選択として臨床で重宝
・拳を握って手首を曲げるとセルフチェック可能
リストカールで他の前腕屈筋群と一緒に鍛える

長掌筋は機能上の役割は小さいながら、人によって有無が異なる興味深い筋であり、医療現場では腱移植材料として大きな価値を持っています。あなたの手首にも長掌筋の腱が浮き出ているか、ぜひチェックしてみてください。

その他の前腕部の筋肉

1.前腕屈筋群
円回内筋橈側手根屈筋尺側手根屈筋浅指屈筋長母指屈筋深指屈筋方形回内筋
2.前腕伸筋群
腕橈骨筋長橈側手根伸筋短橈側手根伸筋総指伸筋小指伸筋尺側手根伸筋回外筋長母指外転筋短母指伸筋長母指伸筋示指伸筋
3.手指部
短母指屈筋短母指外転筋短小指屈筋虫様筋母指内転筋小指外転筋母指対立筋小指対立筋掌側骨間筋背側骨間筋

参考文献・出典

・Wikipedia「長掌筋」https://ja.wikipedia.org/wiki/長掌筋

・看護roo!「長掌筋」https://www.kango-roo.com/word/20064

・日本手外科学会「腱移植術」https://www.jssh.or.jp/

・rehatora.net「長掌筋の解剖と機能・触診」https://rehatora.net/

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