咬筋の作用と役割(起始停止・神経支配・筋トレメニューなどを徹底解剖)
咬筋(こうきん)とは、4つの咀嚼筋(そしゃくきん)のうちの1つで、頬の表面に位置する最も浅層にある筋肉です。奥歯を強く噛みしめると頬の下、エラの周辺で「ぐっ」と硬くなるのを手で感じ取れる、私たちにとってとても身近な筋肉でもあります。
咬筋は噛む力(咬合力)の主役を担い、人間の体の中でも特に強い力を発揮できる筋肉として知られています。一方で、食いしばりや歯ぎしりで肥大しやすく、「エラ張り顔」の原因になることでも知られ、美容面での関心も高い筋肉です。
この記事では、咬筋の起始停止、咬筋神経による神経支配、咀嚼における役割、エラ張り・咬筋肥大症・顎関節症との関わり、そしてセルフケアやボトックス治療まで、解剖学的根拠とともにわかりやすく解説します。
英語名称
masseter muscle(マスィター・マッスル)
「masseter」はギリシャ語の「masasthai(噛む)」に由来する名称です。
咬筋の解説
咬筋(こうきん)は4つの咀嚼筋のうちの1つで、頬の表面に位置する最も浅層にある筋肉です。咀嚼筋は文字通り、咀嚼(食べ物を噛む)するときに活動する筋肉で、主に下顎を強く閉じるときに活躍します。
咀嚼筋には次の4つがあります。
・咬筋(こうきん):本記事のテーマ、最も浅層にある
・側頭筋(そくとうきん):こめかみに扇状に広がる
・内側翼突筋(ないそくよくとつきん):深層にある
・外側翼突筋(がいそくよくとつきん):開口・下顎の前進を担当
咬筋は頬骨弓から起始し、下顎骨の咬筋粗面に停止します。奥歯を強く噛みしめるような動作をすると、下顎面の外側でこの筋肉が活動しているのを手で確認することができます。
例え話で言うと、咬筋は「下顎というドアを下から押し上げて閉める力強い腕」のような存在です。咬筋・側頭筋・内側翼突筋の3つが連携して下顎を引き上げることで、人間は奥歯で体重と同じくらいの咬合力(一般的に60kg前後、最大で100kg以上)を発揮できると言われています。
なお、咬筋は「浅部(せんぶ)」と「深部(しんぶ)」の2層構造になっており、それぞれ起始と停止が少しずつ異なります。
起始
浅部:頬骨弓の前部~中部
深部:下顎骨の下縁の後方1/3、頬骨弓の中部~後部、側頭部
より一般的な解剖学的な記述では、次のように整理されます。
・浅部:頬骨弓の前2/3
・深部:頬骨弓の後ろ2/3
頬骨弓(きょうこつきゅう)は、頬骨と側頭骨でアーチ状に作られる骨の橋のような部分で、ここから咬筋が下方へ伸びています。
停止
下顎角の外面(咬筋粗面)
下顎角(かがくかく=下顎の角の部分、いわゆる「エラ」のあたり)の外面にある咬筋粗面(こうきんそめん)に停止します。
・浅部は咬筋粗面の下部に停止
・深部は咬筋粗面の上部に停止
咬筋が肥大すると、停止部である下顎角が外側に広がって見え、これがいわゆる「エラ張り」の主な原因となります。
咬筋の主な働き
咬筋の主な作用は次の通りです。
・下顎の挙上(口を閉じる):浅部・深部とも共通
・下顎をわずかに前方へ引く:主に浅部の働き
・下顎をわずかに後退させる:主に深部の働き
会話、食事など下顎を動かすすべての動作に関与しますが、特に強く噛むときの主役として活躍します。
咬筋は同側の内側翼突筋とともに作用して、下顎の垂直的な位置の調節を行っています。
咬筋を支配する神経
三叉神経の第三枝(下顎神経)
より詳しくは、三叉神経(第Ⅴ脳神経)の第三枝である下顎神経の枝の1つ、咬筋神経(こうきんしんけい)によって支配されています。
咬筋神経は下顎切痕を越えて咬筋に入り込み、咬筋を支配するとともに、顎関節にも枝を送っています。三叉神経痛が起きると、こめかみだけでなく頬や顎の周辺にも痛みが走るのは、このような神経の走行が関係しています。
日常生活動作
特に食事などにおいて下顎を動かす動作時に側頭筋と共に働きます。
具体的には、次のような場面で咬筋が活躍しています。
・咀嚼(特に硬いものを噛むとき)
・食いしばり(無意識のものも含む)
・歯ぎしり(睡眠中のものを含む)
・緊張時に歯を食いしばる動作
・くいしばって力む動作(重い物を持つときなど)
特にデスクワーク中、ゲーム中、集中している時、ストレスを感じている時に無意識に食いしばる習慣のある方は、咬筋を慢性的に酷使しています。
スポーツ動作
力を入れるすべてのスポーツに関与します。
特に力を入れる際に歯を食いしばる動きに大きな役割をはたしています。
ウェイトリフティング、格闘技、ラグビー、相撲などの瞬発系・コンタクトスポーツでは、無意識に歯を食いしばることで全身の筋出力が向上することが知られています(クレンチング効果)。
ただし、過度な食いしばりは歯のすり減りや顎関節への負担になるため、競技選手の多くはマウスピース(スポーツマウスガード)を使用して咬筋・歯への負担を分散しています。
関連する疾患
咬筋肥大症、顎関節障害
咬筋に関連する代表的な疾患・症状には、次のものがあります。
① 咬筋肥大症(こうきんひだいしょう)
慢性的な食いしばりや歯ぎしり、硬いもの(ガム、スルメ、氷など)の過剰摂取により咬筋が肥大した状態です。両側で起こると、いわゆる「エラ張り顔」になります。美容的な悩みの原因にもなり、近年はボトックス治療(ボツリヌス毒素注射)で咬筋を縮小させる治療が広く行われています。
② 顎関節症(がくかんせつしょう)
口が開けにくい、顎を動かすとカクカク音がする、顎が痛むなどの症状を伴います。咬筋を含む咀嚼筋の過緊張が原因の一つとされ、ストレスや姿勢の悪さ、食いしばりが背景にあるケースが多いです。
③ 食いしばり・歯ぎしり(ブラキシズム)
特に睡眠中の歯ぎしりや、日中の無意識の食いしばりは、咬筋を慢性的に酷使します。歯のすり減り、知覚過敏、顎の痛み、頭痛、肩こりなどの原因にもなります。
④ 咬筋筋筋膜痛障害
咬筋に持続的な負荷がかかると、筋肉内にトリガーポイントができ、頬や顎、こめかみに関連痛を引き起こすことがあります。
咬筋のセルフケア|マッサージとストレッチ
咬筋は意識的にケアすることで、エラ張りの予防、頭痛や顎の不調の軽減、フェイスラインの引き締めなどの効果が期待できます。
①咬筋マッサージ
両手の親指または人差し指の腹で、エラの少し上の咬筋を円を描くように優しく揉みほぐします。奥歯を軽く噛みしめると咬筋の位置が分かりやすく、ピンポイントでマッサージできます。30秒〜1分を目安に行います。
②口を大きく開けるストレッチ
ゆっくり口を最大限に開き、5秒キープしてからゆっくり閉じます。これを10回繰り返します。咬筋を含む咀嚼筋全体をストレッチし、緊張をリセットできます。
ただし、顎関節症の症状がある方は無理せず、痛みのない範囲で行ってください。
③食いしばり対策(マインドフルネス)
日中、ふと気づいたときに「奥歯が当たっていないか」を確認する習慣を作りましょう。正常な状態では、上下の歯は会話や咀嚼以外では触れ合っていないのが基本です。
意識的に上下の歯を離すだけで、咬筋への負担が大きく減ります。
④温める
蒸しタオルやホットアイマスクで頬周辺を温めると、咬筋の緊張がほぐれます。入浴時に湯船にしっかり浸かるのも効果的です。
⑤硬いものを長時間噛む習慣を見直す
ガムを毎日長時間噛んだり、スルメ・硬いせんべいなどを習慣的に食べたりすると、咬筋が発達してエラが目立つ原因になります。気になる方は柔らかめの食事を意識するのも一つの方法です。
注意点:強く押しすぎたり長時間揉んだりすると、かえって痛みが増したり、リンパや神経を傷めることがあります。気持ちいいと感じる範囲で行いましょう。エラ張りが気になり美容目的で改善したい場合は、美容皮膚科や歯科口腔外科でのボトックス治療が選択肢になります。
咬筋を整えるメリット
咬筋を意識的にケアすることで、次のような効果が期待できます。
・エラ張り顔の予防・改善
・フェイスラインの引き締め
・顎関節症の症状軽減
・食いしばり・歯ぎしりの軽減
・頭痛・肩こりの改善(食いしばり由来のもの)
・歯の摩耗・知覚過敏の予防
・睡眠の質向上
特に長時間のデスクワーク、スマホ使用、ストレスの多い現代生活では、知らず知らずのうちに咬筋が緊張しがちです。日常的なセルフケアの価値は大きいと言えます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 咬筋が大きい(エラが張る)原因は何ですか?
主に食いしばり・歯ぎしり・硬いものをよく噛む習慣による咬筋の発達が原因です。骨格そのものによるエラ張りもありますが、筋肉性の場合はセルフケアやボトックス治療で改善が見込めます。
Q2. 咬筋ボトックスはどんな治療ですか?
ボツリヌス毒素を咬筋に注射し、筋肉の働きを一時的に弱めて咬筋を縮小させる美容医療の一つです。エラ張りの改善や食いしばりの軽減に用いられます。効果は3〜6か月程度持続し、繰り返すことで徐々に咬筋を細くしていくことができます。施術は美容皮膚科・歯科口腔外科などで受けられます。
Q3. 咬筋マッサージはどのくらいやればいい?
1日に朝晩2回、各1〜2分程度を目安に。やりすぎは逆効果なので、気持ちいいと感じる強さで継続することが大切です。
Q4. 咬筋と側頭筋はどう違うのですか?
両方とも咀嚼筋ですが、咬筋は頬(エラの上)にある四角い筋肉で、下顎の挙上と前突が主な作用です。一方側頭筋はこめかみにある扇形の筋肉で、下顎の挙上と後退に関与します。両者は連携して咀嚼を担っています。
Q5. 食いしばりに気づくにはどうすればいい?
日中ふと「奥歯が当たっていないか」を確認する習慣をつけましょう。スマホのリマインダーを1時間ごとにセットして「奥歯チェック」をするのも有効です。睡眠中の歯ぎしりは家族に確認してもらうか、起床時の顎の疲れ・歯の痛みでも気づけます。
まとめ
咬筋について解説してきた内容を整理します。
・咬筋は4つの咀嚼筋で最も浅層にあり、強力な噛む力を生み出す
・頬骨弓から起始し、下顎骨の咬筋粗面に停止
・浅部と深部の2層構造で、主作用は下顎の挙上
・支配神経は三叉神経第3枝(下顎神経)の咬筋神経
・咬筋肥大症(エラ張り)・顎関節症・食いしばりと深い関わりがある
・マッサージ・ストレッチ・歯を離す習慣でセルフケアできる
・エラ張りが気になる場合はボトックス治療も選択肢
咬筋は咀嚼に欠かせない強力な筋肉である一方、現代人の食いしばり・歯ぎしり・エラ張りの主役でもあります。「顎が疲れる」「エラが気になる」「頭痛が続く」などの症状を感じたら、まずは咬筋のセルフケアを試してみてください。改善しない場合は、歯科・口腔外科や美容皮膚科などの専門医に相談しましょう。
【表情筋・舌骨下筋群・ 側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋・椎前筋群・後頭下筋群・胸鎖乳突筋・斜角筋群(前斜角筋・中斜角筋・後斜角筋)・頭板状筋・頸板状筋】
咬筋クイズ(全7問)
起始・停止・神経支配などを4択で確認。覚えたかチェックしよう。
問題文
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参考文献・出典
・Wikipedia「咬筋」https://ja.wikipedia.org/wiki/咬筋
・OralStudio 歯科辞書「咬筋」https://www.oralstudio.net/dictionary/detail/2756
・クインテッセンス出版「異事増殖大事典|咬筋深部」https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/occlusion/19908
・かさはら歯科医院「第7回口腔解剖学講座『咀嚼筋』」https://www.aobakai.com/staff-blog/?p=17044
・くぼた歯科クリニック「咬筋マッサージ(咀嚼筋の起始停止)」https://kubota-specialcaredental.jp/




