後斜角筋の作用と役割(起始停止・神経支配・筋トレメニューなどを徹底解剖)
後斜角筋(こうしゃかくきん)とは、首の深層に位置する斜角筋群(前斜角筋・中斜角筋・後斜角筋)を構成する一つの筋肉で、胸郭を広げて息を吸う「吸息動作」で重要な働きをします。
後斜角筋は斜角筋群の中で最も深く、最も後方に位置し、前斜角筋・中斜角筋に比べて小さい筋肉です。前2つの筋が第1肋骨に停止するのに対し、後斜角筋は一列後ろの第2肋骨に停止する点が大きな特徴です。また、人によっては先天的に欠如している場合もあり、解剖学的にユニークな筋として知られています。
この記事では、後斜角筋の起始停止、神経支配、第2肋骨挙上による呼吸補助の役割、斜角筋症候群との関わり、セルフケアまで、解剖学的根拠とともに解説します。
英語名称
scalenus posterior muscle(スカリナス・ポスティアリァ・マッスル)
「posterior scalene muscle」とも表記されます。
後斜角筋の解説
後斜角筋は、頚椎(首の骨)から第2肋骨へとつながる細い呼吸補助筋です。主な役割は、息を吸い込む際に第2肋骨を引き上げ(挙上)、胸郭を広げることで、胸式呼吸をスムーズに行えるようにすることです。
斜角筋群の中では最も深く、かつ最も後ろ側に位置する筋肉ですが、前斜角筋や中斜角筋に比べて小さく細いのが特徴です。人によっては中斜角筋と癒合している場合や、まれに先天的に欠如している場合もあります。
また、呼吸の補助だけでなく、首の運動(頚椎の屈曲・側屈)にも関わっています。
例え話で言うと、後斜角筋は「斜角筋群の補欠選手」のような存在です。前斜角筋・中斜角筋が主力選手として第1肋骨を引き上げる一方、後斜角筋は一つ後ろの第2肋骨を担当して、深い呼吸時にチームをサポートします。
起始
第5~第7頸椎(C5~C7)の横突起の後結節
停止
第2(または第3)肋骨の外側面
前斜角筋・中斜角筋が第1肋骨に停止するのに対し、後斜角筋だけが第2肋骨に停止します。この違いが、引き上げるターゲット肋骨の違いを生み出しています。
後斜角筋の主な働き

後斜角筋は、主に以下のような運動や動作時に働きます。
- 第2肋骨の挙上:息を深く吸い込む際に第2肋骨を引き上げて胸郭を広げます
- 頚椎の側屈:片側の後斜角筋が収縮すると、首をその方向(同側)へ傾けます
- 頚椎の屈曲:左右両方が同時に収縮することで、首を前に曲げる動作を補助します
固定される側によって作用が変わります。
・頸椎が固定されているとき:第2肋骨を引き上げて吸気を補助
・肋骨が固定されているとき:両側で頚部屈曲、片側で同側への側屈
後斜角筋を支配する神経
頸神経叢及び腕神経叢の枝(C7〜C8)
日常生活動作
主に首を前や横に曲げるときに他の筋肉と協調して作用します。また、深呼吸をする時や、デスクワークなどで前かがみの姿勢を維持する際にも、首の安定性を保つために微細に働いています。
具体的には次のような場面で活躍します。
・深呼吸・激しい呼吸
・首を前・横に曲げる動作
・会話・発声時の呼吸補助
・長時間の前かがみ姿勢の維持
スポーツ動作
ランニングやダッシュ、激しいトレーニングなど、大量の酸素が必要となる持久系・瞬発系スポーツにおいて、強制吸気(激しい呼吸動作)を補助する筋肉として機能します。
関連する疾患
後斜角筋を含む斜角筋群が過度に緊張して硬くなると、神経や血管が圧迫されて以下のような疾患を引き起こすことがあります。
① 斜角筋症候群(胸郭出口症候群の一型)
斜角筋群の過緊張により、首から腕に走る腕神経叢が圧迫される疾患。手や腕のしびれ・冷感・だるさが主症状です。
② エルブ麻痺・クルムプケ麻痺
腕神経叢の損傷による麻痺。エルブ麻痺は上位型(C5〜C6)、クルムプケ麻痺は下位型(C8〜T1)で、それぞれ症状が異なります。
③ 慢性的な首こり・肩こり
胸式呼吸の習慣化やストレスによる浅い呼吸で、後斜角筋を含む斜角筋群が常時緊張し、首こり・肩こりの原因になります。
後斜角筋に効果的なエクササイズ
後斜角筋などの首まわりの筋肉は繊細なため、強い負荷をかける筋トレよりも、軽い抵抗を用いたトレーニングや、緊張をほぐすストレッチが効果的です。
1. 頚椎側屈レジスタンス
手のひらを頭の横(耳の上あたり)に当て、手と頭で押し合います。首の骨が曲がらないように真っ直ぐに保ったまま5秒間キープすることで、後斜角筋を含む斜角筋群を安全に強化できます。
2. 斜角筋ストレッチ
鎖骨(第2肋骨のあたり)を片手で軽く下に引き下げながら、首を反対側、かつ少し斜め前方に傾けます。首の横から後ろ側にかけてじんわりと伸びるのを意識し、呼吸を止めずに20秒キープします。
3. 腹式呼吸
仰向けでお腹を膨らませる深呼吸を習慣化すると、後斜角筋を含む呼吸補助筋の過剰な働きを抑えられます。
注意点:後斜角筋周辺には腕神経叢などの重要な神経が走行しています。強圧マッサージは避け、優しいストレッチに留めてください。腕のしびれが続く場合は整形外科・ペインクリニックを受診してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 後斜角筋が生まれつき無い場合、体に問題はありますか?
後斜角筋は先天的に欠如している人が比較的多い筋肉です。隣接する前斜角筋や中斜角筋、あるいは他の呼吸補助筋(胸鎖乳突筋など)がその機能を補うため、日常生活や通常の呼吸において大きな支障が出ることはほとんどありません。
Q2. 後斜角筋が凝るとどんな症状が出ますか?
首こり・肩こりの原因になるだけでなく、腕神経叢を圧迫して「腕や手のしびれ・冷え・だるさ」を引き起こす「斜角筋症候群」の原因になることがあります。
Q3. 前斜角筋・中斜角筋との最大の違いは?
最も大きな違いは停止部(付着する肋骨の位置)です。前斜角筋と中斜角筋は第1肋骨に付着するのに対し、後斜角筋は一列後ろの第2(または第3)肋骨に付着します。引き上げる肋骨のターゲットが異なります。
Q4. 後斜角筋を意識的に鍛えるべき?
特別に鍛える必要はありません。むしろ過緊張になりやすい筋なので、ストレッチと腹式呼吸でリラックスさせるケアが優先です。
Q5. ストレッチで気をつけることは?
強圧マッサージは厳禁です。優しいストレッチに留め、痛みやしびれが出たらすぐ中止してください。
まとめ
後斜角筋について解説してきた内容を整理します。
・C5〜C7頚椎横突起後結節から起こり、第2肋骨外側面に停止
・斜角筋群の中で最も深く後方、最も小さい筋肉
・先天的に欠如している人も少なくない
・主な作用は第2肋骨の挙上(呼吸補助)と頚部の屈曲・側屈
・支配神経は頚神経叢・腕神経叢(C7〜C8)
・過緊張は斜角筋症候群・首こり・腕のしびれの原因に
・強圧マッサージは厳禁、優しいストレッチが基本
後斜角筋は小さく目立たない筋肉ですが、深い呼吸時の補助役として、また首の安定性に貢献する重要な筋です。慢性的な首こりや腕のしびれがある方は、姿勢と呼吸を見直し、優しいストレッチから始めてみてください。
【表情筋・舌骨下筋群・ 側頭筋・ 咬筋・ 内側翼突筋・外側翼突筋・椎前筋群・後頭下筋群・胸鎖乳突筋・斜角筋群(前斜角筋・中斜角筋)・頭板状筋・頸板状筋】
参考文献・出典
・療法士活性化委員会「後斜角筋の解剖と機能を徹底解説」https://lts-seminar.jp/
・セラピストプラス「斜角筋とはどんな筋肉?」https://co-medical.mynavi.jp/
・日本整形外科学会「胸郭出口症候群」https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/thoracic_outlet_syndrome.html
・筋肉研究所「後斜角筋」https://www.kinken.org/k10540.html


