骨盤底筋群の作用と役割(起始停止・神経支配・筋トレメニューなどを徹底解剖)
骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)とは恥骨(ちこつ)・尾骨(びこつ)・坐骨(ざこつ)で構成される骨盤の底の穴を塞ぐように存在する筋肉群のことです。英語では「pelvic floor muscles」と呼ばれます。
骨盤底筋群は骨盤隔膜と尿生殖隔膜の二つの筋群に分類され、骨盤隔膜は肛門挙筋と尾骨筋から成り立ちます。「インナーユニットの底面」「女性の健康の鍵」として、尿失禁予防・産後ケア・スポーツパフォーマンス向上の中核を担う筋肉群です。
この記事では、次のような疑問にお答えします。
・骨盤底筋群の正しい解剖は?
・骨盤隔膜と尿生殖隔膜とは?
・尿失禁を予防するには?
・産後ケアでなぜ重要?
例え話で言うと、骨盤底筋群は「骨盤の底を支える筋肉のハンモック」のような存在です。子宮・膀胱・直腸といった臓器を下から支えると同時に、骨盤腔の安定・腹圧の維持・尿便のコントロールを担います。
英語名称
pelvic floor muscles(ペルビック・フロア・マッスルズ)
「pelvic(骨盤の)」+「floor(床)」+「muscles(筋肉)」で構成された名称。骨盤の床を支える筋群を意味します。
骨盤底筋群の解説
骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)は恥骨・尾骨・坐骨で構成される骨盤の底の穴(骨盤腔)を塞ぐように存在する複数の筋肉群の総称です。
骨盤底筋群は『骨盤隔膜(こつばんかくまく)』と『尿生殖隔膜(にょうせいしょくかくまく)』の二つの筋群に分類され、『骨盤隔膜』は肛門挙筋群と尾骨筋から成り立ちます。
『骨盤隔膜』は肛門を囲むように位置し、骨盤腔の全体をふさいでいます。『尿生殖隔膜』は主に深会陰横筋と浅会陰横筋から成り立ち、生殖器を囲うように骨盤腔の前方をふさいでいます。
骨盤底筋群は主に内臓(子宮や膀胱など)の重みを支えたり、腹圧を高める働きがあり、この筋肉を鍛えることは加齢に伴う軽度の尿失禁の改善や予防にもとても効果的です。
また、骨盤底筋群には身体の軸(体軸)を保つ役割があるとされており、特にバレエのようにしなやかな動きが求められるスポーツでは骨盤底筋群を鍛えることはとても重要だと言われています。
骨盤底筋群は背筋を伸ばし、お尻の穴を締めるように意識することでも十分強化することができます。
- 肛門挙筋群(腸骨尾骨筋、恥骨尾骨筋、恥骨直腸筋、恥骨会陰筋)
- 尾骨筋
- 深会陰横筋
- 浅会陰横筋
骨盤底筋群の2層構造|骨盤隔膜と尿生殖隔膜
骨盤底筋群は2層の構造を持っています:
骨盤隔膜(深層)
・肛門挙筋群+尾骨筋から構成
・骨盤腔全体をふさぐ
・骨盤臓器の主要な支え
・肛門・尿道・膣口を取り囲む
肛門挙筋群の内訳:
・腸骨尾骨筋
・恥骨尾骨筋
・恥骨直腸筋(排便時に重要)
・恥骨会陰筋
尿生殖隔膜(浅層)
・深会陰横筋+浅会陰横筋から構成
・骨盤腔の前方をふさぐ
・尿道・膣の周辺を強化
・尿失禁予防の最前線
両層が連携して骨盤臓器の支え+尿便のコントロール+出産時の役割を担います。
尿失禁・骨盤臓器脱の予防|女性医療の重要トピック
骨盤底筋群を語る上で最も重要なのが尿失禁と骨盤臓器脱の予防です。
尿失禁のタイプと骨盤底筋:
① 腹圧性尿失禁(最多)
咳・くしゃみ・運動などで腹圧がかかった時に尿が漏れる症状。骨盤底筋の弱化が直接の原因。女性の3人に1人が経験するとも言われます。
② 切迫性尿失禁
急に強い尿意を感じて漏れる症状。膀胱の問題が主だが、骨盤底筋強化も改善に貢献。
③ 混合性尿失禁
腹圧性と切迫性の両方を持つタイプ。
骨盤臓器脱(POP):
骨盤底筋の機能低下で子宮・膀胱・直腸が膣方向に下垂する症状。重症化すると外に飛び出すことも。
・子宮脱
・膀胱瘤
・直腸瘤
原因と危険因子:
・加齢(女性ホルモン減少)
・妊娠・出産
・更年期
・慢性的な咳・便秘
・肥満
・重労働
予防と改善:
・ケーゲル体操(骨盤底筋トレーニング)
・体重管理
・便秘の改善
・禁煙(慢性咳の予防)
・重症化前の婦人科受診
尿失禁・骨盤臓器脱は「年だから仕方ない」と諦める必要はない症状です。早めの骨盤底筋トレーニングで予防・改善が可能です。
産後ケアとケーゲル体操|女性の人生を変える筋肉
骨盤底筋群は出産で最大のダメージを受ける筋肉です。
妊娠・出産による骨盤底筋へのダメージ:
・妊娠中の重い子宮の圧迫
・経腟分娩時の伸展・損傷
・会陰切開・裂傷
・長時間の分娩
産後の問題:
・尿失禁(産後女性の30〜50%が経験)
・性機能の変化
・骨盤臓器脱(数年後に発症することも)
・腰痛
ケーゲル体操(骨盤底筋トレーニング)
1948年にアメリカの婦人科医アーノルド・ケーゲルが開発した骨盤底筋トレーニング。世界中で産後ケアの標準として広く実践されています。
ケーゲル体操の基本:
1. 仰向けまたは座位でリラックス
2. 「おしっこを我慢する」感覚で骨盤底筋を締める
3. 5秒キープ
4. ゆっくり力を抜いて5秒休む
5. 10回×3セット
6. 1日3回を目標に
続けると:
・2〜3ヶ月で尿失禁が改善
・骨盤臓器脱の予防
・性機能の回復
・産後体型の引き締まり
ハイパープレッシャーシステム(HPS)
近年フランス発で注目される産後ケア法。骨盤底筋+腹横筋+横隔膜を同時活性化する呼吸トレーニングで、ケーゲル体操の数倍の効果があるとも言われます。
女性医療の世界では「すべての女性に骨盤底筋トレーニングを」が推奨されています。年齢に関わらず始めて遅すぎることはありません。
骨盤底筋群を支配する神経
陰部神経叢(S2〜S4の前枝)
仙髄から出る陰部神経叢に支配されます。排尿・排便のコントロールもこの神経が担います。
日常生活動作
姿勢保持や腹圧を高め、内臓(子宮・膀胱)の保持、軽度の尿失禁の改善に大きく貢献します。
具体的には:
・排尿のコントロール
・排便のコントロール
・骨盤臓器の支え
・姿勢保持
・腹圧の維持
・分娩(出産時のいきみ)
・性機能
人体の根幹的な機能を支える重要な筋。
スポーツ動作
バレエダンサーのように体軸を整え、あらゆるスポーツ動作に関与し、上半身を安定させる働きに大きく貢献します。
特に重要なスポーツ:
・バレエ・ダンス(体軸の中心)
・ピラティス・ヨガ(コアの底面)
・陸上競技(衝撃の吸収)
・ウエイトリフティング(腹圧の維持)
・ゴルフ・テニス(スイングの軸)
・水泳(体幹の安定)
スポーツのパフォーマンスは骨盤底筋群の機能に大きく依存します。
関連する疾患
① 腹圧性尿失禁
骨盤底筋の弱化が直接の原因。女性の3人に1人が経験。
② 骨盤臓器脱
子宮・膀胱・直腸が膣方向に下垂する症状。重症化前のケアが重要。
③ 慢性便秘
骨盤底筋の協調不全による排便困難。
④ 慢性骨盤痛症候群
骨盤底筋の過緊張・トリガーポイントが原因の慢性痛。
⑤ 性機能障害
骨盤底筋の機能低下による性機能の問題。
骨盤底筋群を効果的に鍛えるトレーニング
① ケーゲル体操(最も基本)
「おしっこを我慢する」感覚で骨盤底筋を締める。5秒キープ×10回×3セット、1日3回。仰向け・座位・立位でできる、いつでもどこでも可能なトレーニング。
② ドローイン+ケーゲル
お腹を凹ませる(ドローイン)と同時に骨盤底筋を締める。腹横筋+骨盤底筋を同時強化。
③ ブリッジ
仰向けで膝を曲げ、お尻を持ち上げる動作。骨盤底筋+臀筋を強化。10回×3セット。
④ スクワット
正しいフォームで実施すれば骨盤底筋にも刺激。下半身全体の強化と併せて。
⑤ ピラティス・ヨガ
骨盤底筋を意識した動作が多く、総合的に鍛えられます。
頻度の目安:
毎日がおすすめ。ケーゲル体操は数ヶ月の継続が効果のカギ。
骨盤底筋群のセルフケア
①リラクゼーション
骨盤底筋が過緊張だと逆に機能低下します。意識的に力を抜く練習も大切。
②深呼吸との連動
吸気時に骨盤底筋が下がり、呼気時に上がる感覚を意識。横隔膜との連動を学ぶ。
③温める
蒸しタオルやお風呂で骨盤周りを温めると緊張緩和に。
④姿勢の改善
反り腰や猫背の改善で骨盤底筋の負担を軽減。
⑤専門家への相談
頑固な症状は婦人科・泌尿器科・骨盤底筋専門の理学療法士に相談を。
よくある質問(FAQ)
Q1. 骨盤底筋群とは何の筋肉の総称?
肛門挙筋群・尾骨筋(骨盤隔膜)+深会陰横筋・浅会陰横筋(尿生殖隔膜)の総称。骨盤の底を支える筋群です。
Q2. 骨盤底筋トレーニングはいつから始めるべき?
年齢に関わらず今から。妊娠中・産後・更年期前後・尿失禁を感じ始めた時など、どのタイミングでも効果があります。
Q3. ケーゲル体操の効果はいつ出る?
2〜3ヶ月の継続で効果を感じる方が多い。継続が最大の鍵。
Q4. 男性も骨盤底筋トレーニングは必要?
はい、男性の骨盤底筋も尿失禁・前立腺がん術後・性機能に関わります。男性向けのケーゲル体操もあります。
Q5. 産後すぐにトレーニングしてもいい?
産後2〜3日からの軽いケーゲル体操はOK。会陰切開などがあった場合は医師と相談を。
Q6. 骨盤臓器脱の症状は?
下腹部の重い感じ・違和感・膣からの何かが出る感覚。早めに婦人科を受診してください。
まとめ
骨盤底筋群について解説してきた内容を整理します。
・骨盤隔膜(肛門挙筋群+尾骨筋)+尿生殖隔膜(深・浅会陰横筋)の総称
・恥骨・尾骨・坐骨で囲まれた骨盤の底に位置
・2層構造のハンモック
・主作用は骨盤臓器の支え+腹圧維持+尿便のコントロール
・支配神経は陰部神経叢(S2〜S4)
・尿失禁・骨盤臓器脱の予防の鍵
・産後ケアの中核
・ケーゲル体操で強化可能
・男女問わず重要な筋
骨盤底筋群は人生のクオリティに直結する重要な筋肉です。尿失禁・産後の不調・体幹の安定に悩む方は、今日からケーゲル体操を始めましょう。継続することで、必ず変化を実感できます。
その他の腹部・腰部の筋肉
【腹直筋・腹斜筋群(外腹斜筋・内腹斜筋)・腸腰筋(腸骨筋・大腰筋・小腰筋)・腹横筋・腰方形筋・脊柱起立筋(胸腸肋筋・腰腸肋筋・胸最長筋・胸棘筋・多裂筋)・横隔膜・下後鋸筋】
参考文献・出典
・Wikipedia「骨盤底筋群」https://ja.wikipedia.org/wiki/骨盤底筋群
・看護roo!「骨盤底筋」https://www.kango-roo.com/word/20109
・日本産科婦人科学会「女性医学ガイドライン」https://www.jsog.or.jp/
・日本排尿機能学会「下部尿路症状ガイドライン」http://japanese-continence-society.kenkyuukai.jp/
・厚生労働省 e-ヘルスネット「尿失禁」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
・rehatora.net「骨盤底筋群の解剖と機能・触診」https://rehatora.net/


