肘関節の屈曲・伸展とは
図のように肘関節を中心に手の平を耳に近づける動作を屈曲といいます。
屈曲に作用する主な筋肉は上腕二頭筋・上腕筋・腕橈骨筋などが上げられます。
伸展は曲がった肘を伸ばす動作をいいます。
伸展に作用する動作は上腕三頭筋ですが、図のように90度から0度の動きを引き起こすのはあくまでも重力です。
このとき上腕二頭筋はエクセントリックまたはアイソメトリックに活動しています。
この記事では、次のような疑問にお答えします。
・肘関節の屈曲・伸展とは?
・どの筋肉が関わる?
・正常な可動範囲は?
・テニス肘・野球肘との関係は?
例え話で言うと、肘関節は「腕のドア蝶番」のような構造。1方向の屈伸動作に特化した精密な蝶番関節で、私たちの食事・作業・スポーツのほとんどに関わる重要な関節です。
肘関節の解剖学|3つの関節からなる複合関節
肘関節は実は「3つの関節」からなる複合関節:
① 腕尺関節(わんしゃくかんせつ)
・上腕骨の滑車+尺骨の滑車切痕
・蝶番関節
・屈曲・伸展の主役
・最も大きな動き
② 腕橈関節(わんとうかんせつ)
・上腕骨小頭+橈骨頭
・球関節
・屈伸+回内・回外
③ 上橈尺関節(じょうとうしゃくかんせつ)
・橈骨頭+尺骨橈骨切痕
・車軸関節
・前腕の回内・回外
3つの関節の協調:
これら3つが同じ関節包に包まれ、協調動作で:
・屈曲・伸展(本記事)
・回内・回外(前腕の動き)
を実現します。
肘関節の特徴:
① 蝶番関節(ヒンジ関節)
・1方向のみの動き
・屈伸動作に特化
・安定性が高い
② 強力な靭帯
・内側側副靭帯
・外側側副靭帯
・輪状靭帯(橈骨頭を囲む)
③ 力の伝達
・手から上腕への力の伝達
・上腕から手への力の伝達
・てこの作用
「3次レバー」:
肘関節は「3次のてこ」として機能:
① 支点:肘関節
② 力点:上腕二頭筋の停止部(橈骨)
③ 作用点:手
この配置により:
・大きな速度を発揮
・力は劣る
・遠くまで届く
例:1kgの物を持つ時、上腕二頭筋は5〜7倍の力を発揮しています。
肘関節の屈曲・伸展に関与する筋肉
伸展:上腕三頭筋
屈曲に関与する筋肉の詳細:
① 上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)
・上腕前面の表層
・二頭(長頭・短頭)
・屈曲+回外の同時動作
・力こぶの筋
② 上腕筋(じょうわんきん)
・上腕二頭筋の下層
・純粋な屈曲筋
・回内位でも屈曲可能
・「真の屈筋」
③ 腕橈骨筋(わんとうこつきん)
・前腕外側
・回内・回外中間位での屈曲
・「ビールジョッキの筋」
「肘屈曲筋の3兄弟」:
これら3筋は前腕の位置で役割が変わる:
① 回外位(手のひら上)
・上腕二頭筋が最も活動
② 中間位(親指上)
・腕橈骨筋が最も活動
③ 回内位(手のひら下)
・上腕筋が最も活動
トレーニングではすべての位置で鍛えることが重要。
伸展に関与する筋肉の詳細:
① 上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)
・上腕後面
・三頭(長頭・外側頭・内側頭)
・唯一の主要伸展筋
・「腕の70%」を占める
補助筋:
・肘筋(ちゅうきん):小さな補助筋
「重力が伸展を引き起こす」:
立位で肘を90度から0度に伸ばす時:
① 上腕三頭筋は活動しない
重力で勝手に伸びます。
② 上腕二頭筋がブレーキ役
エキセントリック収縮で速度を制御。
③ 急に伸ばす時のみ
上腕三頭筋が短縮性収縮。
このため、日常的に上腕三頭筋は使われにくいのです。これが「振袖肉」の原因。
上腕屈伸筋のバランス:
理想的な比率:
・屈筋(上腕二頭筋等):伸筋(上腕三頭筋)=1:3
・「腕の70%は上腕三頭筋」
しかし現代人は:
・屈筋過多(物を持つ動作中心)
・伸筋不足(振袖肉)
意識的な上腕三頭筋強化が重要です。




可動範囲
屈曲:0〜150°
伸展:0〜5°
可動範囲の詳細:
屈曲:
・0〜150度
・手のひらが耳付近まで
・前腕の太さで制限あり
伸展:
・0〜5度
・「過伸展」はわずか
・骨性ロックで制限
「肘の0度」:
完全に伸ばした状態が0度。これより手前は「過伸展」:
① 男性:通常0度
② 女性:過伸展5〜10度が普通
・関節弛緩性が高い
・女性特有
「全可動域」:
肘の全可動域:
・屈曲0〜150度
・伸展0〜5度
・合計155度
これは人体の関節としては標準的。膝(130〜140度)より大きく、足首(70〜90度)より大きいです。
年齢別の目安:
屈曲:
・20代:150度
・40代:140〜150度
・60代:130〜145度
・80代:120〜140度
伸展:
・20代:0〜5度
・40代:0度
・60代:-5〜0度(伸びきらない)
・80代:-10〜-5度
「肘が伸びない」現象:
加齢で「肘が完全に伸びない」ことがあります:
・関節包の硬化
・変形性肘関節症
・骨棘形成
・関節遊離体
完全伸展の制限は日常生活の支障に直結。早期のストレッチが重要です。
制限の意味:
可動範囲の低下は:
・テニス肘・野球肘
・変形性肘関節症
・関節包の硬化
・筋の硬化
を示唆します。




主な運動、スポーツ動作
バーベルカール・バーベル・ベンチプレス・ボクシング・空手などの打撃系格闘技・バスケットボールのパスとキャッチ
各種目での役割:
① バーベルカール
・屈曲の典型動作
・上腕二頭筋の主役
・力こぶづくり
② バーベル・ベンチプレス
・伸展の代表動作
・上腕三頭筋の活躍
・押し出し動作
③ ボクシング
・パンチ動作=伸展(爆発的)
・ガード=屈曲(持続)
・切り替えのスピード
④ 空手などの打撃系格闘技
・突き技=伸展
・受け技=屈曲
・反復した動作
⑤ バスケットボールのパスとキャッチ
・パス=伸展
・キャッチ=屈曲(衝撃吸収)
・エキセントリック収縮
その他の重要なスポーツ:
⑥ 野球の投球
・テイクバック=屈曲
・リリース=急速な伸展
・肘へのストレス大
⑦ テニス・バドミントン
・ストロークでの屈伸
・テニス肘のリスク
⑧ 体操
・つり輪・鉄棒
・体重支持での屈伸
⑨ クライミング
・引きつけ=屈曲
・身体を保持での持続
⑩ 水泳
・キャッチ=屈曲
・プッシュ=伸展
日常生活でも食事・歯磨き・髪を結ぶ・運転・パソコン操作などで頻繁に使われます。
テニス肘・野球肘|現代人の肘関節障害
肘関節の最大の問題が「テニス肘」と「野球肘」です:
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)
① 主な症状
・肘の外側の痛み
・物を持つ時の痛み
・手首を反らす時の痛み
② 原因
・手関節伸筋群の過使用
・短橈側手根伸筋の腱の損傷
・反復的な動作
③ 発症年齢
・40〜50代に多い
・テニス愛好家
・主婦・パソコン作業者
④ テニス肘テスト
・Thomsen test:手首を反らせて抵抗
・Chair test:椅子を持ち上げる
・痛みがあれば陽性
テニス肘の予防:
・適切なフォーム
・手関節伸筋群のストレッチ
・適切なラケット
・練習量の管理
野球肘(内側型・外側型・後方型)
① 内側型
・肘の内側の痛み
・内側側副靭帯損傷
・小指のしびれ(尺骨神経)
② 外側型
・肘の外側の痛み
・離断性骨軟骨炎
・少年野球選手に多い
・手術が必要なことも
③ 後方型
・肘の後ろの痛み
・肘頭の疲労骨折
・過伸展動作で発症
野球肘の予防:
・球数制限(少年野球:1日70球)
・適切なフォーム
・休養日の設定
・定期的なメディカルチェック
その他の肘関節障害:
① ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)
・肘の内側の痛み
・手関節屈筋群の過使用
・ゴルフ・ボウリング・野球で発症
② 学童肘(小児肘内障)
・2〜4歳の小児
・橈骨頭の亜脱臼
・「手を引っ張った」で発症
・整復で即座に治る
③ 変形性肘関節症
・加齢による変性
・骨棘形成
・肘が伸びない・曲がらない
④ 肘部管症候群
・尺骨神経の圧迫
・小指のしびれ
・手の筋萎縮
⑤ 肘関節脱臼
・転倒での発症
・整復後のリハビリが重要
予防と改善:
① 適切なウォームアップ
・運動前のストレッチ
・段階的な負荷
② 筋力バランス
・屈筋・伸筋のバランス
・前腕筋群の強化
③ 適切なフォーム
・専門家の指導
・自己流の修正
④ 適切な道具
・ラケット・グローブの選択
・道具のメンテナンス
⑤ 休養
・痛みがあれば休む
・慢性化前に対処
⑥ 早期受診
・2週間以上の痛みは要受診
セルフチェックと予防ストレッチ
セルフチェック:
① 屈曲可動域テスト
方法:
1. 立位
2. 手のひらを上に
3. 肘を曲げて手を肩に近づける
評価:
・手のひらが肩に触れる:正常(150度)
・10cm離れる:軽度制限
・20cm以上離れる:要対応
② 伸展可動域テスト
方法:
1. 立位で腕を前に
2. 完全に肘を伸ばす
3. 反対の腕と比較
評価:
・完全に伸びる:正常
・軽度の屈曲位:要注意
・明らかに伸びない:要対応
③ テニス肘テスト(Thomsen test)
方法:
1. 肘を伸ばす
2. 手首を反らせる
3. 抵抗を加える
評価:
・痛みなし:正常
・肘外側に痛み:テニス肘疑い
④ ゴルフ肘テスト
方法:
1. 肘を伸ばす
2. 手首を曲げる
3. 抵抗を加える
評価:
・痛みなし:正常
・肘内側に痛み:ゴルフ肘疑い
予防ストレッチ:
① 上腕二頭筋ストレッチ
方法:
1. 壁に手をつく(高さは肩)
2. 身体を反対側に回す
3. 上腕前面の伸び
4. 30秒×3回
② 上腕三頭筋ストレッチ
方法:
1. 片手を頭の後ろに
2. もう片方の手で肘を引き寄せる
3. 上腕後面の伸び
4. 30秒×3回
③ 手関節伸筋群ストレッチ(テニス肘予防)
方法:
1. 腕を前に伸ばす(手のひら下)
2. 反対の手で手首を下に引く
3. 前腕外側の伸び
4. 30秒×3回
④ 手関節屈筋群ストレッチ(ゴルフ肘予防)
方法:
1. 腕を前に伸ばす(手のひら上)
2. 反対の手で手首を下に引く
3. 前腕内側の伸び
4. 30秒×3回
⑤ 上腕三頭筋強化(振袖肉対策)
方法(ダンベル・キックバック):
1. 前傾姿勢
2. 肘を体側に
3. 前腕だけ後ろに伸ばす
4. 10回×3セット
頻度の目安:
毎日のケアが推奨。朝・夜の5分でも肘の健康維持に効果的。
注意事項:
・痛みがある場合は中止
・慢性的な痛みは整形外科へ
・過度な伸展は危険
肘関節は「使いすぎ・使わなさすぎ」両方が問題。バランスの取れたケアで一生健康な肘を維持しましょう。
まとめ
肘関節の屈曲・伸展について解説してきた内容を整理します。
・蝶番関節として1方向の動き
・3つの関節(腕尺・腕橈・上橈尺)の複合
・屈曲筋:上腕二頭筋・上腕筋・腕橈骨筋
・伸展筋:上腕三頭筋
・「腕の70%」は上腕三頭筋
・前腕位置で活動筋が変化(回内・中間・回外)
・正常可動域:屈曲150度・伸展0〜5度
・主なスポーツ:バーベルカール・ベンチプレス・格闘技
・現代人の問題:テニス肘・野球肘・振袖肉
・セルフチェック+ストレッチで予防可能
肘関節は「腕のドア蝶番」として、食事・作業・スポーツのすべての日常動作に関わる重要な関節です。テニス肘・野球肘などの障害を予防するため、適切なフォーム+筋力バランス+ストレッチで一生使える肘を維持しましょう。
参考文献・出典
・厚生労働省 e-ヘルスネット「スポーツ外傷」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
・日本整形外科学会「テニス肘・野球肘」https://www.joa.or.jp/
・日本肘関節学会「肘関節疾患」http://www.jses.or.jp/
・日本臨床スポーツ医学会「投球障害肘」http://www.rinspo.jp/
・rehatora.net「肘関節の機能解剖」https://rehatora.net/










