肩関節の外転・内転とは
図のように側方に上腕を挙上する動作を外転といいます。
更に90度を越え180度まで外転させた場合を側方挙上と呼ぶこともあります。
肩関節の外転に関わる代表的な筋肉として棘上筋・三角筋中部などがあげられます。
内転は外転された上腕部を下垂状態に戻すことをいいます。
内転に関わる代表的な筋肉として広背筋・大円筋・大胸筋があげられます。
この記事では、次のような疑問にお答えします。
・肩関節の外転・内転とは?
・どの筋肉が関わる?
・正常な可動範囲は?
・インピンジメント症候群との関係は?
例え話で言うと、肩関節の外転は「腕を真横に広げる扇のような動き」です。冠状面で180度の広い可動域を持ち、私たちの腕を「翼」のように使うことを可能にしています。
外転の段階的メカニズム|3つの筋肉のリレー
肩の外転動作は段階的に異なる筋肉が主役を担います:
外転は冠状面の動き:
冠状面(前頭面)とは身体を前後に分ける垂直面。外転・内転はこの面での動きです。
外転の3段階リレー:
第1段階:0〜30度(棘上筋)
・棘上筋が主役
・外転動作の「開始」を担当
・三角筋の動作軸を確保
・ローテーターカフの1つ
なぜ棘上筋が最初か:
腕が下垂位の時、三角筋の収縮方向は上腕骨頭を上に引き上げる方向に向きます。棘上筋がまず外転を開始することで、三角筋が効率的に働ける角度を作ります。
第2段階:30〜90度(三角筋中部)
・三角筋中部が主役
・最大の収縮力を発揮
・外転動作の中心
・最も大きな貢献
第3段階:90〜180度(僧帽筋・前鋸筋)
・肩甲骨の上方回旋が必要
・僧帽筋上部・下部
・前鋸筋
・スカプロハメラルリズムが重要
180度挙上の内訳:
・肩関節(肩甲上腕関節):120度
・肩甲骨上方回旋:60度
・合計:180度
つまり、肩関節単独では120度までしか外転できず、180度の完全挙上には肩甲骨の協調動作が必須です。
「ペインフルアーク」:
外転動作で60〜120度の範囲には「痛みの弧(painful arc)」と呼ばれる現象があります。これは後述するインピンジメント症候群の典型症状です。
外転動作の特徴:
・多くの筋の協調が必要
・関節の安定性と可動性のバランス
・機能異常が起こりやすい
・四十肩で最初に制限される動き
肩関節の外転・内転に関与する筋肉
外転に関与する筋肉の詳細:
① 棘上筋(きょくじょうきん)
・肩甲骨上面から起こる
・外転の開始(0〜30度)を担当
・ローテーターカフの1つ
・断裂しやすい筋
② 三角筋中部
・肩関節外側の表層
・外転の主役(30〜90度)
・最大の収縮力
・肩の「逆三角形シルエット」の元
補助筋:
・三角筋前部・後部(協調)
・僧帽筋(肩甲骨上方回旋)
・前鋸筋(肩甲骨上方回旋)
内転に関与する筋肉の詳細:
① 広背筋
・背中の広範囲を覆う最大の筋
・内転の主役
・引っ張る動作で活躍
② 大円筋
・肩甲骨外側下方
・「広背筋の小さな相棒」
・内転+内旋+伸展
③ 大胸筋
・胸前面を覆う
・内転+水平内転
・押す動作で活躍
補助筋:
・上腕三頭筋長頭
・烏口腕筋
・菱形筋(肩甲骨の引き寄せ)
「棘上筋」のスペシャル機能:
棘上筋は外転動作の独自の役割を持ちます:
① 動作の開始者
最初の30度を担当し、三角筋にバトンタッチ。
② 上腕骨頭の安定
ローテーターカフとして関節窩への押し付けを担当。
③ 痛めやすい筋
・腱板断裂の最頻発筋
・特に40歳以上で多い
・血流が乏しいエリア
④ インピンジメントの中心
・肩峰下を通る
・挟まれやすい位置
・後述の症候群の主因
外転と内転の力比較:
実は内転筋の方が外転筋より大きな力を発揮できます:
内転筋:
・広背筋・大胸筋・大円筋(強力な大筋群)
・大きな筋総量
・強い力
外転筋:
・棘上筋・三角筋中部(中程度の筋)
・力は中程度
これは樹上生活時代の進化的名残(懸垂動作で身体を引き上げる必要性)と考えられています。




可動範囲
外転:0〜180°
内転:0°
外転0〜180度の詳細:
・0〜30度:棘上筋主導
・30〜90度:三角筋中部主導
・90〜180度:肩甲骨上方回旋
「内転0度」の意味:
「内転0度」とは解剖学的肢位(腕が体側にある状態)。0度から先(体幹の前を横切る)は「水平内転」や「内旋を伴う内転」として分類されます。
過内転(hyperadduction):
解剖学的には、体の前を横切って反対側に行く動作は別の動きとして扱われます。
年齢別の外転可動域:
・20代:180度
・40代:170〜180度
・60代:150〜170度
・80代:130〜160度
四十肩での制限:
四十肩・五十肩では外転が最初に制限されます:
・60度でストップ
・髪をとかせない
・洗濯物を干せない
・シャツの脱ぎ着が困難
肩の全可動範囲一覧:
・屈曲:0〜180度
・伸展:0〜60度
・外転:0〜180度(本記事)
・内転:0度(本記事)
・外旋:0〜90度
・内旋:0〜80度




主な運動、スポーツ動作
サイドレイズ・体操の吊り輪・ゴルフ・高飛び込み
各種目での役割:
① サイドレイズ
・三角筋中部の専門トレーニング
・肩の外転動作の典型
・肩幅の広い体型づくり
② 体操の吊り輪
・外転位での体重支持
・十字懸垂(最大の外転筋力)
・水平十字(究極の外転)
③ ゴルフ
・テイクバックでの外転
・フォロースルーでの内転
・両肩の協調
④ 高飛び込み
・空中での外転姿勢
・美しい入水のため
・体操要素
その他の重要なスポーツ:
⑤ 水泳(バタフライ・自由形)
・外転で水を捉える
・内転で推進力を生む
⑥ テニス・バドミントン
・サーブでの外転
・スマッシュ動作
⑦ バスケットボール
・シュート動作
・リバウンド時の外転
⑧ バレーボール
・スパイク動作
・サーブ動作
⑨ クライミング
・外側のホールドを掴む
・横方向への動き
⑩ ヨガ・ピラティス
・多様なポーズ
・柔軟性向上
日常生活でも洗濯物干し・棚から物を取る・髪を整える・運転などで頻繁に使われます。
インピンジメント症候群と痛みの弧|外転動作のトラブル
肩の外転動作では「インピンジメント症候群」が最大の問題:
インピンジメント症候群とは
肩の外転時に棘上筋腱が肩峰下で挟まれる状態:
① 主な症状
・外転時の痛み
・挙上時のひっかかり感
・夜間痛
・可動域制限
② 病態
・棘上筋腱の炎症
・滑液包炎
・肩峰下の組織が挟まる
③ 好発年齢
・40歳以上
・スポーツ選手(若年でも)
「ペインフルアーク(痛みの弧)」:
インピンジメントの典型症状:
① 0〜60度
・痛みなし
・スムーズに動く
② 60〜120度
・痛みが出現
・棘上筋腱が肩峰下で挟まる
・「ペインフルアーク」
③ 120〜180度
・痛みが軽減
・挟まれている範囲を通過
この「中間の弧で痛む」のがインピンジメント症候群の特徴。
インピンジメント症候群の3段階:
Neer分類:
Stage 1(25歳以下)
・腱の浮腫・出血
・可逆的
・スポーツ選手に多い
Stage 2(25〜40歳)
・線維化・腱炎
・部分的な不可逆性
・慢性化
Stage 3(40歳以上)
・骨棘形成・腱板断裂
・不可逆性
・手術が必要なことも
原因:
① 解剖学的要因
・肩峰の形状(鉤型は要注意)
・肩峰下スペースの狭さ
② 動作要因
・繰り返しの上方挙上
・不適切なフォーム
・スポーツの過使用
③ 筋力バランス
・ローテーターカフの弱化
・肩甲骨周囲筋の機能低下
④ 姿勢
・猫背
・巻き肩
・ストレートネック
関連する障害:
① 腱板断裂
・棘上筋が最多発
・外転不能
・「ドロップアームサイン」陽性
② 滑液包炎
・肩峰下滑液包の炎症
・腫れ・痛み
③ 石灰沈着性腱炎
・カルシウム結晶の沈着
・激痛
・40〜50代女性に多い
④ 上腕二頭筋長頭腱炎
・上腕二頭筋長頭腱の炎症
・前方の痛み
予防と改善:
① 適切なウォームアップ
・振り子運動
・軽い外転から開始
② ローテーターカフ強化
・外旋・内旋エクササイズ
・低負荷×高回数
③ 肩甲骨周囲筋強化
・菱形筋・中・下部僧帽筋
・前鋸筋
④ 姿勢改善
・猫背・巻き肩の修正
・胸郭の柔軟性
⑤ 痛みがある時は無理しない
・急性期は休む
・整形外科へ
外転・内転のセルフチェックと予防ストレッチ
セルフチェック:
① 外転可動域テスト
方法:
1. 直立する
2. 腕を真横から上に挙げる
3. 腕が耳につくか確認
評価:
・耳の真横までつく:正常(180度)
・水平より上:軽度制限(90〜170度)
・水平止まり:要対応(90度)
② ペインフルアークテスト
方法:
1. ゆっくり外転
2. 60〜120度の範囲で痛みがあるか
3. その範囲を超えると痛みが軽減するか
評価:
・痛みなし:正常
・60〜120度で痛む:インピンジメント疑い
・全範囲で痛む:他の疾患の可能性
③ ドロップアームサイン
方法:
1. 腕を水平まで上げる
2. その後ゆっくり下ろす
3. 途中で腕が落ちるか確認
評価:
・スムーズに下ろせる:正常
・腕が落ちる:腱板断裂疑い
④ 結帯動作・結髪動作
四十肩・五十肩の評価。日常動作の指標。
予防ストレッチ:
① 振り子運動(基本)
方法:
1. テーブルに片手をつく
2. もう片方の腕を下に垂らす
3. 前後・左右・円に振る
4. 1〜2分間
効果:肩関節包のリリース。痛みがあっても可能。
② 外転ストレッチ
方法:
1. 壁に向かって立つ
2. 腕を伸ばして真横に
3. 壁に指をつけてそろりそろり上に
4. 痛みのない範囲で
③ 広背筋ストレッチ(内転筋)
方法:
1. 両手を頭の上で組む
2. 身体を横に倒す
3. 脇の下〜背中の伸び
4. 30秒×3回×左右
④ 大胸筋ストレッチ
方法:
1. 壁に手をつく
2. 身体を反対側に回す
3. 胸の伸び
4. 30秒×3回
⑤ 棘上筋強化(ローテーターカフ)
方法:
1. 軽いダンベル(0.5〜1kg)を持つ
2. 腕を斜め前30度に
3. サムズアップ姿勢
4. 30度程度ゆっくり挙上
5. 10回×3セット
頻度の目安:
毎日のケアが推奨。1日5〜10分で肩のトラブル予防に効果的。
注意事項:
・痛みがある場合はすぐ中止
・急性期は安静優先
・整形外科での相談を優先
肩関節の外転は「最も使う+トラブルが起きやすい」動作。意識的なケアで一生使える肩を維持しましょう。
まとめ
肩関節の外転・内転について解説してきた内容を整理します。
・冠状面での腕の横挙上動作
・外転は3段階リレー:棘上筋→三角筋中部→僧帽筋
・0〜30度=棘上筋主導
・30〜90度=三角筋中部主導
・90〜180度=肩甲骨上方回旋
・外転筋:棘上筋・三角筋中部
・内転筋:広背筋・大円筋・大胸筋
・内転筋の方が強い力を発揮
・正常可動域:外転180度・内転0度
・主なスポーツ:サイドレイズ・吊り輪・ゴルフ・高飛び込み
・現代人の問題:インピンジメント症候群・腱板断裂
・「ペインフルアーク」(60〜120度の痛み)が要注意
肩関節の外転は「腕を真横に広げる扇のような動き」として、私たちの日常動作・スポーツ・コミュニケーションのすべてを支えています。最も使う動作だからこそトラブルが起きやすい関節。ローテーターカフ強化+姿勢改善+定期的なストレッチで、一生健康な肩を維持しましょう。
参考文献・出典
・厚生労働省 e-ヘルスネット「肩こり」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
・日本整形外科学会「肩関節周囲炎」https://www.joa.or.jp/
・日本肩関節学会「肩関節疾患」https://katakansetsu.jp/
・日本理学療法士協会「肩関節リハビリテーション」https://www.japanpt.or.jp/
・rehatora.net「肩関節の機能解剖」https://rehatora.net/










