目次
大胸筋の作用と役割(起始停止・神経支配・筋トレメニューなどを徹底解剖)
大胸筋(だいきょうきん)は上半身を形成する筋肉の中で最も強大な筋肉です。
スポーツ動作においては野球のボールを投げる動作や、ボールを打つといった動作などに関与します。
また、日常生活では胸の前で物を抱きかかえる動作や、うつ伏せ寝の状態から上半身を起こしあげる動作などに関与します。
また、大胸筋は胸板を形成する筋肉の最も表層部にあり、バストの形などに大きく影響を及ぼします。
そのため大胸筋を鍛えるということは男女ともにとても人気があります。
しかし大胸筋が発達しすぎたり、大胸筋の柔軟性がなくなってしまったりすると肩関節が前方に引っ張られ、いわゆる巻き肩(肩関節の内旋)になってしまい、姿勢が悪くなってしまうこともあります。
大胸筋は大きく上部、中部、下部で構成され、どの部分を鍛えるかによっても筋線維の方向性を考慮する必要があります。
例えば大胸筋の上部線維は①のような流れになっているため、ここを鍛えるためにはインクラインベンチと呼ばれる傾斜したベンチを用いて鍛える必要があります。
同様に大胸筋をストレッチする際も筋線維の方向性を考慮する必要があります。
大胸筋全体及び中部線維をストレッチするには②、大胸筋上部をストレッチするには①、大胸筋下部をストレッチするには③の流れにそって筋線維を伸ばす必要があります。
大胸筋の起始停止
起始①鎖骨部(上部):鎖骨部は鎖骨の内側1/2
起始②胸肋部(中部):胸肋部(きょうろくぶ)は胸骨柄、第2~第7肋軟骨(ろくなんこつ)前面
起始③腹部(下部):腹直筋鞘(ふくちょくきんしょう)の前葉(ぜんよう)
停止:上腕骨の大結節稜(だいけっせつりょう)
大胸筋の役割と作用
大胸筋は運動動作においては主に肩関節の水平内転、屈曲(初期のみ)、内転、内旋動作などに関与しています。
水平内転:肩関節90°外転位で上腕部を前方(水平方向)に移動させる動きを水平屈曲または水平内転といいます。
屈曲:前方に上腕部を挙上する動作を屈曲といいます。
90°を越え更に180°まで屈曲させる動きを前方挙上と呼ぶこともあります。
内転:肩関節外転位で上腕部を体に近づける動き(下垂)を内転いいます。
内旋:下垂状態にある上腕部を外側から内側に向かって捻ることを内旋といいます。
大胸筋を支配する神経
大胸筋を支配する神経は内側及び外側胸筋神経(C5~C8、T1)です。
日常生活動作
大胸筋は日常生活の中では『胸の前で物を抱きかかえる動作』や『うつ伏せの状態から身体を起こしあげる動作』などに関与します。
スポーツ動作
大胸筋はスポーツ動作において、野球のボールを投げる、ボールを打つといった動作をはじめ、体操、ボクシング、空手、アメリカン・フットボールなどの各種競技においてもとても重要な役割を果たしています。
関連する疾患
随意性肩関節脱臼(ずいいせいかたかんせつだっきゅう)、肩関節拘縮(かたかんせつこうしゅく)など
大胸筋を鍛える筋トレ種目
①大胸筋トレーニング【バーベルベンチプレス】
バーベルベンチプレスとは主に大胸筋(だいきょうきん)を中心に三角筋(さんかくきん)、上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)を鍛える筋トレ種目です。
バーベルベンチプレスは胸の筋肉を鍛える代表的なトレーニング種目です。
【鍛えられる筋肉】
【バーベルベンチプレスの正しい行い方】
- ベンチ台の上に仰向けに寝ます。
肩甲骨を引き寄せながらグリップを握ります。
このときグリップの握り幅は肩幅の1.5倍程度に広げておきます。 - 頭部、肩部、臀部はベンチ台にしっかり固定し、足裏を床に置きます。
このとき腰の部分に手のひら一枚分の隙間ができるようにします。 - ラックからバーベルをはずし、コントロールしながらゆっくりバーベルを胸の上に下ろします。
- 肩甲骨を寄せた状態を保ちながら開始位置までバーベルを持ち上げます。
【バーベルベンチプレスのコツ】
- グリップの握り方は親指をしっかり巻きつけて行う『サムアラウンドグリップ』を用いるようにします。
- 運動動作中は手首が過度に反らないようにします。
手首が反りすぎてしまうと手首を痛める恐れがあります。 - 運動動作中は常に肘はバーの真下にくるようにします。
肘の位置がずれてしまうと動作中にバランスを崩してしまい思わぬケガをしてしまうことがあります。 - 運動動作中は常に肩甲骨と肩甲骨をお互いに引き寄せておきます。
肩甲骨の寄せが甘いと肩関節や上腕二頭筋の長頭腱を痛めてしまう恐れがあります。 - 初心者、初級者の方はバーベルを胸の上でバウンドさせないようにします。
チーティング(はずみ、反動)を用いることで高重量は挙げやすくなりますが、胸への刺激が少なくなってしまいます。
また、このようなやり方を行ってしまうと肋骨や胸骨を痛めてしまう恐れがあります。 - バーベルを差し上げる際にはしっかりと顎を引き寄せます。
バーベルを差し上げるときに後頭部をベンチに押しつけるような動作をしてしまうと、力が十分に発揮できないばかりか首を痛めてしまう恐れもあります。
②大胸筋トレーニング【ダンベルプレス】
ダンベルプレスとは主に大胸筋(だいきょうきん)を中心に三角筋(さんかくきん)、上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)を鍛える筋トレ種目です。
ダンベルプレスはバーベルベンチプレスに比べてより可動域を広く行うことできます。
バーベル比べて扱う負荷は軽いですが、バランスが不安定なために大胸筋意外にも様々な筋肉を鍛えることができます。
【鍛えられる筋肉】
【ダンベルプレスの正しい行い方】
- 両手にダンベルを持ちながらベンチの上に仰向けに寝ます。
- 頭部、肩部、臀部はベンチ台にしっかり固定し、足裏を床に置きます。
このとき腰の部分に手のひら一枚分の隙間ができるようにします。 - 肩甲骨を真ん中に引き寄せながら背部をしっかりベンチに固定します。
- 胸を張り、肩甲骨を寄せながらダンベルをゆっくりと降ろします。
- 肩甲骨を寄せたままダンベルを開始姿勢まで持ち上げます。
【ダンベルプレスのコツ】
- グリップの握り方は親指をしっかり巻きつけて行う『サムアラウンドグリップ』を用いるようにします。
- 運動動作中はしっかりと顎を引き寄せておきます。
顎を引き寄せておかないと力が十分に発揮できないばかりか首を痛めてしまう恐れもあります。 - 運動動作中は常に肩甲骨と肩甲骨をお互いに引き寄せておきます。
肩甲骨の寄せが甘いと肩関節や上腕二頭筋の長頭腱を痛めてしまう恐れがあります。 - フィニッシュポジションで腕を閉じるような動作を加えることで、大胸筋上部内側に対して強い刺激を与えることができます。
③大胸筋トレーニング【ケーブルクロスオーバー】
ケーブルクロスオーバーとは主に大胸筋(だいきょうきん)を中心に三角筋(さんかくきん)を鍛える筋トレ種目です。
エクササイズの際に角度のついたケーブルを用いることで大胸筋下部内側部と三角筋前部に強い刺激をもたらすことができます。
【鍛えられる筋肉】
【ケーブルクロスオーバーの正しい行い方】
- 頭上にあるケーブルクロスオーバーマシンのグリップを握り、背すじを弓なりにし、胸を少し突き出した姿勢をとります。
- このとき足幅は肩幅程度に拡げておきます。
- 肩甲骨を寄せながら、肩関節を中心とした描円運動を行います。
グリップとグリップが触れ合うぎりぎりまで合わせたら肩甲骨を寄せたまま同じ軌道を通りながら開始姿勢に戻ります。
【ケーブルクロスオーバーのコツ】
- グリップの握り方は親指をしっかり巻きつけて行う『サムアラウンドグリップ』を用いるようにします。
- 運動動作中は常に両肘は軽く曲げておきます。(両肘を伸ばしたままこのエクササイズを行うと肘に負担がかかるからです)
- 運動動作中は常に肩甲骨と肩甲骨をお互いに引き寄せておきます。
肩甲骨の寄せが甘いと肩関節や上腕二頭筋の長頭腱を痛めてしまう恐れがあります。 - フィニッシュポジションでやや腕を斜め前下方に押し出すような動作を行うと大胸筋下部内側部に対しての刺激が強くなります。
- 運動動作中はしっかりと顎を引き寄せておきます。
力が十分に発揮できないばかりか首を痛めてしまう恐れもあります。
④大胸筋トレーニング【ペックデックフライ】
ペックデックフライとは大胸筋(だいきょうきん)を中心に三角筋(さんかくきん)などの筋肉を鍛える筋トレ種目です。
ペックデックフライはダンベルプレスに比べてより大胸筋を中心に刺激を与えることができます。
【鍛えられる筋肉】
【ペックデックフライの正しい行い方】
- パッドに腕を固定します。腕をパッドに固定したときに上腕部が床と平行になるようにシートの高さを調整します。
また、肩関節がマシンの回転軸(カム軸)と並ぶようにします。 - 胸を張り、肩甲骨を寄せながらパッドを胸の前で合わせます。
フィニッシュポジションでパッドを前に押し込み、大胸筋内側を完全収縮させます。 - 肩甲骨を寄せたまま抵抗に逆らいながらパッドを元の位置まで戻します。
【ペックデックフライのコツ】
- 運動動作中は常に肩甲骨と肩甲骨をお互いに引き寄せておきます。
肩甲骨の寄せが甘いと肩関節を痛めてしまう恐れがあります。 - フィニッシュポジションでやや腕を前方に押し出すような動作を行うと大胸筋内側部に対しての刺激が強くなります。
- 運動動作中は力が十分発揮できるように顎を引き寄せておきます。
- パッドが肩より上の位置にあると肩関節に強い負担がかかるので十分気をつけます。
- このエクササイズは大胸筋を収縮させるだけでなく、大胸筋を伸展させることも重要となります。
胸を開くときは大胸筋をエキセントリック収縮(伸長性収縮)をさせながら戻していきます。
⑤大胸筋トレーニング【プッシュアップ】
プッシュアップとは大胸筋(だいきょうきん)を中心に三角筋(さんかくきん)や上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)などの筋肉を鍛える筋トレ種目です。
プッシュアップは自重、すなわち自分の体重を用いる筋トレ種目です。
【鍛えられる筋肉】
【プッシュアップの正しい行い方】
- 両手の幅を肩幅より2握り拳分だけ広くし、ハの字型に手をつきます。
- 背すじをしっかり伸ばし、肩甲骨を寄せて構えます。
このとき腰が反らないように体幹部をしっかり固定(大胸筋に対する負荷が分散してしまい効果が少なくなるからです)し、両足はそろえておきます。 - ゆっくりと両肘を曲げて身体を下ろしていきます。
このとき常に肘の真下に手がくるように意識しながら行います。(大胸筋への刺激が逃げてしまうからです) - 胸が床面に軽く触れたら両肘をゆっくりと伸ばし、もとの開始姿勢まで戻ります。
【プッシュアップのコツ】
- 運動動作中どうしても腰が反ってしまう方は腹直筋を充分強化してからこのエクササイズにトライした方が良いと思います。
- 肩部や上腕部への刺激を強めるために手幅を狭めてエクササイズを行っても良いでしょう。
この場合、肘は外側に広げず少し絞り気味に行います。 - 運動動作中はしっかりと顎を引き寄せておきます。
顎を引き寄せておかないと力が十分に発揮できないばかりか首を痛めてしまう恐れもあります。 - 運動動作中は常に肩甲骨と肩甲骨をお互いに引き寄せておきます。
肩甲骨の寄せが甘いと肩から初動することになり大胸筋に負荷が集中しないだけでなく、肩関節や上腕二頭筋の長頭腱を痛めてしまう恐れがあります。
肩甲骨を寄せていない状態で腕立て伏せを行うと、三角筋や上腕三頭筋に刺激が逃げてしまいます。 - フィニッシュポジションで腕を閉じるような動作を加えることで、大胸筋に対して強い刺激を与えることができます。
大胸筋の筋力チェック方法
【実施方法】
(写真1)
①患者さんはベットの上で仰臥位になり患側上肢をベットの側方へ健側上肢の手の平を患側側の胸部に手の平を置きます。
②術者の患側上肢の手首を把握し、もう一方の手は手の平で患者さんの胸部に置いた手の甲を軽く押さえます。このとき、患側上肢はベットより高い位置で保持します。(写真1参照)
(写真2)
③術者は患側上肢をベットに近づけるよう圧迫を加えます。(写真2参照)
【ワンポイント】
正しく測定するためには患者さんは患側の上肢を最大限に内旋させる必要があります。テスト中、痛みを起こさせないようにする必要があるので手の平を全開させ、術者は患者さんの手首基部近くを接触する必要があります。
【論考】
この検査を左右両方で実施します。
弱いと感じた側の大胸筋が弱化している可能性があります。
【神経リンパ反射】
- 右乳首の下、第5~6肋骨の間の乳頭線から胸骨の間
- T5~T6の間、椎弓板(通常は右側)
【臓器・腺】
肝臓