身体を構成する重要な組織である骨格筋(筋肉)は、その力強い動きを発揮する為に『筋収縮』という活動を行わなければなりません。
この筋肉の収縮様式は、筋肉の変化・力の発揮状態によって下記のように大きく2つに大別することができ、更に等張性収縮と呼ばれる筋活動では2つに分類することができます。
- 等尺性収縮(とうしゃくせいしゅうしゅく)
- 等張性収縮(とうちょうせいしゅうしゅく)
a.短縮性収縮(たんしゅくせいしゅうしゅく)
b.伸張性収縮(しんちょうせいしゅうしゅく) - 等速性収縮(とうそくせいしゅうしゅく)
この記事では、次のような疑問にお答えします。
・骨格筋の収縮様式とは何?
・等尺性・等張性・等速性の違いは?
・短縮性と伸張性の使い分けは?
・トレーニングへの応用は?
例え話で言うと、骨格筋の収縮様式は「筋肉が力を出す3つの方法」です。状況に応じて筋肉は異なる収縮方法を選び、私たちの日常動作・スポーツ・筋トレを支えています。
代表的な筋肉の収縮様式
1.等尺性収縮(とうしゃくせいしゅうしゅく)
等尺性収縮とは力を発揮するときに筋肉の長さを全く変化させることなく行う筋の活動様式のことです。
筋肉の長さを変化させないといっても、全く筋の長さが同じ状態というわけではありません。
筋肉の両端の長さが常に一定の状態に保たれながらも力を発揮している状態のことを表します。
例えば、胸の前で両方の手の平をぐっと押し付けあうときがそれに相当します。
また、等尺性収縮が最大の状態に発揮されることによって、『等尺性最大筋力』と『耐筋力』という2つの筋力が表れることが判明しています。
等尺性最大筋力とは、筋肉を持つ生物が能動的に発揮することができる最大筋力のことで、耐筋力とは、一定の力に対して粘り強さを発揮する事ができる筋力のことです。
このように等尺性収縮は力を入れているにも関わらず、見かけ上の動きは止まってみえることからアイソメトリック・コントラクションと呼ばれることがあります。(アイソは等しい、メトリックは長さという意味です)
等尺性収縮(アイソメトリック)のトレーニング応用
等尺性収縮を活用したトレーニング方法:
① プランク
体幹を一定の姿勢で保持。腹直筋・脊柱起立筋などの等尺性収縮。
② ウォールシット
壁に背中をつけ、空気椅子の姿勢を保持。大腿四頭筋の等尺性収縮。
③ プレートホールド
プレートを手で持って一定時間保持。前腕筋群の等尺性収縮。
④ アイソメトリック・スクワット
スクワットの途中で姿勢をキープ。
等尺性収縮のメリット:
・関節への負担が少ない
・場所を選ばない
・リハビリ初期に有効
・姿勢維持能力向上
・体幹強化に効果的
等尺性収縮の限界:
・筋肥大効果は限定的
・動きの中での筋力は付きにくい
・関節可動域全体での強化はできない
そのため、等尺性収縮は動的トレーニングと組み合わせるのが理想です。
2.等張性収縮(とうちょうせいしゅうしゅく)
等張性収縮は等張力性収縮ともよびます。
この等張性収縮には筋肉が自然長(筋肉が縮んだり伸びたりしていない通常の長さのこと)よりも短くなることで力を発揮する短縮性収縮(たんしゅくせいしゅうしゅく)と、逆に筋肉が自然長よりも長くなることで力を発揮する伸張性収縮(しんちょうせいしゅうしゅく)の2種類があります。
例えば手の平にダンベルを乗せてアームカールを行うときの収縮様式は筋肉が短くなりながら力を発揮するので短縮性収縮です。
伸張性収縮は巻き上げたダンベルをゆっくり重力に逆らいながら降ろしていくときの収縮様式のことです。
短縮性収縮vs伸張性収縮|筋肥大効果の違い
等張性収縮の2タイプには、興味深い違いがあります:
短縮性収縮(コンセントリック収縮)
・筋肉が短くなる
・負荷を持ち上げる動作
・例:ダンベルを上げる、立ち上がる、ジャンプ
伸張性収縮(エキセントリック収縮)
・筋肉が長くなる
・負荷を下ろす・支える動作
・例:ダンベルを下ろす、座る、着地
力発揮の比較:
実は伸張性収縮の方が大きな力を発揮できることが知られています:
・等尺性最大筋力:100%
・短縮性最大筋力:約70〜80%
・伸張性最大筋力:約120〜140%
「下ろすときの方が重い物を扱える」のはこのためです。
筋肥大効果の比較:
近年の研究で、伸張性収縮の方が筋肥大効果が高いことが分かっています:
① マッスルダメージが大きい
微細な筋損傷が多い。
② サテライト細胞の活性化
筋線維の修復・成長が促進。
③ ホルモン応答
成長ホルモン・IGF-1の分泌増加。
④ 遅発性筋肉痛(DOMS)
筋肉痛が出やすい=刺激が強い。
トレーニング応用:
① ネガティブレップ
下ろす動作を3〜5秒かけて行う。筋肥大効果UP。
② フォーストネガティブ
持ち上げはパートナーが補助、下ろすのは自分で。
③ ヘビーネガティブ
1RM以上の重量で下ろす動作のみ。上級者向け。
注意点:
伸張性収縮は強い刺激のため:
・筋肉痛が強く出る
・怪我のリスクも高い
・回復時間が長い
・頻度は週1〜2回に抑える
短縮性と伸張性をバランス良く組み合わせるのが理想です。
3.等速性収縮(とうそくせいしゅうしゅく)
等速性収縮は一定の速度で動く物体(レバーなど)に対して力を発揮する収縮様式です。
等速性収縮(アイソキネティック)の特徴
等速性収縮は他の収縮様式と異なる独自の特徴があります:
等速性収縮とは:
「速度」が一定に保たれる収縮様式。専用の等速性運動マシン(アイソキネティックマシン)でしか実現できません。
等速性マシン:
・サイベックス
・バイオデックス
・キンコム
これらの機器は関節可動域全体を通して、一定の速度で動作するように設計されています。
等速性収縮の特徴:
① 速度コントロール
動作速度が一定(例:30度/秒)。
② 最大筋力での連続収縮
全可動域で最大筋力発揮が可能。
③ 客観的測定
筋力を数値化して評価可能。
④ 関節への負担が少ない
速度コントロールで衝撃なし。
主な用途:
① スポーツ医学
プロスポーツ選手の筋力評価。
② リハビリテーション
ACL(前十字靭帯)術後など。
③ 研究
筋力・パワー研究の標準ツール。
④ 整形外科
筋力左右差の評価。
一般トレーニングでの限界:
等速性マシンは専門施設にしかない高価な機器のため、一般のジムでは使えません。
ただし、概念的には「ゆっくりとした一定速度のトレーニング」に近い効果が期待できます:
・スロートレーニング(5秒上げ・5秒下げ)
・テンポトレーニング(音楽のテンポに合わせる)
・マシン系トレーニング(一部)
収縮様式と日常動作の関係
3つの収縮様式は、私たちの日常動作の中で常に使い分けられています:
歩行:
・蹴り出し(短縮性):大腿四頭筋・下腿三頭筋
・着地(伸張性):大腿四頭筋・前脛骨筋
・立脚期(等尺性):体幹筋・大臀筋
階段の上り下り:
・上り(短縮性):大腿四頭筋・大臀筋
・下り(伸張性):大腿四頭筋(より強い負荷)
椅子に座る:
・立ち上がる(短縮性):大腿四頭筋
・座る(伸張性):大腿四頭筋
・座位姿勢(等尺性):体幹筋
物を運ぶ:
・持ち上げる(短縮性):脊柱起立筋・上腕二頭筋
・運搬中(等尺性):体幹筋・前腕筋
・下ろす(伸張性):脊柱起立筋
下りで筋肉痛が出やすい理由:
階段を下りた後や坂を下った後に筋肉痛が出やすいのは、伸張性収縮が多用されるためです:
・マッスルダメージが大きい
・遅発性筋肉痛(DOMS)が起こりやすい
・体重×重力を支える負荷
これを利用して「ダウンヒルウォーキング」などの伸張性収縮トレーニングが提唱されています。
スポーツでの活用:
各収縮様式はスポーツでも重要:
① 静的なスポーツ(等尺性)
・体操の静止技
・ヨガ
・クライミング
② 動的なスポーツ(短縮性)
・陸上競技
・ジャンプ系競技
③ 衝撃吸収・着地(伸張性)
・着地系競技
・急停止・方向転換
・ボクシング(受け身)
各スポーツに必要な収縮様式を理解し、トレーニングに活かしましょう。
まとめ
骨格筋の収縮様式について解説してきた内容を整理します。
・3つの収縮様式:等尺性・等張性・等速性
・等尺性収縮=筋肉の長さ変化なし(プランクなど)
・等張性収縮=筋肉が長さを変える
・短縮性収縮(コンセントリック):筋肉が短くなる
・伸張性収縮(エキセントリック):筋肉が長くなる
・等速性収縮=一定の速度で力発揮
・力の発揮:伸張性>等尺性>短縮性
・伸張性収縮は筋肥大効果が高い
・下りで筋肉痛が出やすいのは伸張性収縮のため
・日常動作・スポーツで常に使い分けられている
骨格筋の収縮様式は「筋肉が力を出す3つの方法」として、私たちの日常動作・スポーツ・筋トレを支えています。3つの収縮様式の特徴を理解し、目的に応じた使い分けで効果的なトレーニング+怪我予防を実現しましょう。
参考文献・出典
・厚生労働省 e-ヘルスネット「筋肉と運動」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
・日本臨床スポーツ医学会「スポーツ医学」http://www.rinspo.jp/
・American College of Sports Medicine(ACSM)「Resistance Training」https://www.acsm.org/
・National Strength and Conditioning Association(NSCA)「Muscle Contraction」https://www.nsca.com/
・国立スポーツ科学センター(JISS)「筋力・パワー」https://www.jpnsport.go.jp/jiss/




