何かしらの原因で筋肉が急激に引き伸ばされてしまうと、筋肉を構成している筋線維や筋肉の表面を覆っている筋膜が強く引き伸ばされすぎてしまい筋肉を痛めてしまうことがあります。
筋肉が完全に断裂した状態を『筋断裂(きんだんれつ)』といい、筋線維の一部が断裂してしまった状態を『筋損傷(きんそんしょう)』、筋肉の膜が断裂した状態を『筋膜断裂(きんまくだんれつ)』といいます。
一般的に我々が普段『肉離れ』と呼ぶものはこの『筋損傷』及び『筋膜断裂』のことを指します。(筋断裂と肉離れを混同している方が意外に多いようです)
筋紡錘は筋肉を痛めないようにするためのセンサー
このような怪我を防ぐために骨格筋(以下、筋肉)には、『筋紡錘(きんぼうすい)』と呼ばれる感覚器官が存在します。
筋肉が急激に引き伸ばされると筋紡錘が感知し、キャッチした情報は瞬時に脊髄の前角細胞に送られ、前角細胞から運動神経を介して”直ちに収縮しろ”という命令を筋肉に送り返えし、筋肉が元の長さに戻るように収縮しようとします。
これを『伸張反射(しんちょうはんしゃ)』といいます。
筋肉に強い力が加わると思わぬ怪我をしてしまうことがありますが、それらを防ぐためにこのように『筋紡錘』が大きな役割を果たしているのです。
このような筋紡錘の一連の働きは人間の意識下で行われている訳ではなくすべて無意識に行われているのです。
何故なら意識下では怪我を防ぐ行動としてはあまりにも反応が遅すぎるからです。
例えば電車内で酔っ払いが吊革につかまって居眠りをしてたり、学校で居眠りをしていて頭が急激に倒れた場合、意識下でこの反応が起こってたとしたら筋線維や筋膜を痛めてしまいます。
転倒することなくバランスを取りながら立っていられる、頭の位置を反射的に元の状態に戻せるというのは全てこの筋紡錘が無意識に働いているからです。
このように筋紡錘は物の重さや加わった力の抵抗などを感じ取り、身体の姿勢を調節するという働きを持っている重要なセンサーの役割を果たしています。
筋紡錘の働きが低下してしまうと日常生活に様々な支障が生じてしまう
筋紡錘の働きの一つに『膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)』と呼ばれる反射作用があります。
膝蓋腱反射は伸張反射に属するもので、それが正常に機能しているかどうかを調べる際に打腱器(または打診器)と呼ばれる専用の器具を用いることがあります。
打腱器を使用し、膝蓋骨直下の膝蓋腱(膝蓋靭帯ともいう)を叩くと正常な反応であれば筋紡錘の張力受容器からのインパルスが腰髄に伝えられて大腿四頭筋が急激に収縮し、膝から下の下腿部が突然ピンとはね上がります。(この反応は脊髄反射の一種です)
膝蓋腱反射は『脚気(かっけ)』の検査としても有名です。
脚気は体内の『ビタミンB1』が不足してしまうことで起きてしまう病気で、体内のビタミンB1が不足すると筋紡錘がうまく働かなくなるので膝蓋腱反射の反応が鈍くなるか、あるいは全く反応しなくなってしまいます。
この他にも筋紡錘に対し持続的に強い力が加わり続けると、縮こまった筋肉が元に戻らずに固くなってしまうことがあります。
これは『痙縮(けいしゅく)』といって、筋紡錘の障害により、筋紡錘から信号が絶えず送り出されるようになってしまい、揉んだり温めたりなどの治療を加えても筋肉が弛緩(緩むという意味)することがなくなってしまう症状です。(痙縮は脳卒中の患者さんによくみられます)
また、咳などを長期に渡り続けることで肋間筋群(外肋間筋、内肋間筋)が上手く機能しなくなり、筋紡錘が感知したままになってしまい呼吸困難をきたすことがあります。
更に筋紡錘に問題が生じると頻繁に『こむら返り』になってしまうという説もあります。
一般にこむら返りは筋疲労や寒暖差、血流の不足、ミネラルの不足、水分の不足などによって生じると言われていますが、筋紡錘と『腱紡錘(けんぼうすい)』(あるいはゴルジ腱器官:筋紡錘とは異なり、腱内に存在する感覚受容器で腱の伸張、すなわち筋の張力に反応して通常発揮される筋力を抑制する作用を持つ受容器のことです)とのバランスが崩れてしまうことで引き起こされることもあると言われています。
適度に筋紡錘を刺激しよう!
健康に生活していくためには適度に筋紡錘に刺激を与えることは、生きていく上でとても大切だといわれています。
筋紡錘へ刺激を与えることはすなわち『筋肉に刺激を与える』という意味です。
このために日頃から筋トレを行ったり、時には弾みや反動をつけて行うダイナミックストレッチやバリスティックストレッチを行うことは非常に有効です。