『オーバートレーニング症候群(以下、オーバートレーニング)』とは適切な運動強度、量、頻度を超えた状態でトレーニングを中・長期に渡り続けたことによって、肉体的・精神的にストレスが蓄積してしまった状態のことをいいます。
一度、このオーバートレーニングに陥ってしまうと疲労がどんどん蓄積していってしまい、肉体的・精神的に非常に回復しにくい状態になってしまいます。
回復しない状態が長期間続くと身体のあちこちに負担がかかり、やがて怪我もしやすくなり、最終的にはパフォーマンスそのものが低下していってしまいます。
症状が軽い場合は『オーバーリーチング』と呼ばれます。
オーバーリーチングの場合はオーバートレーニングとは異なり、症状は数日から1週間程度で回復します。
しかし、症状が重度の場合は、『オーバートレーニング』と呼ばれ、肉体的・精神的の回復に数週間から数ヶ月に及ぶこともあると言われています。
オーバートレーニングはスポーツ選手だけのもの?
オーバートレーニングは何も日常的に身体を酷使しているスポーツ選手だけに限った話しではありません。
一般的な部活動を行なっている学生や社会人のスポーツ愛好家でもオーバートレーニングに陥ってしまう可能性は十分にあります。
過密なスケジュールでトレーニングをした場合は勿論のこと、日々の勉強や仕事との兼ね合いの問題で、相乗的に疲労が溜まりオーバートレーニングになってしまうことも珍しくありません。
また、部活動などにおいて、まだ身体の基礎(構造的、肉体的)も出来上がっていない学生に対し、それを考慮に入れずに練習をさせてしまうことでオーバートレーニングになってしまうことも良くあります。
こうならないようにするためには指導者や上級者は『個人の体力』『身体の発達具合』などを考慮に入れて、運動強度や量、頻度、休息を考慮に入れながら運動指導をしなければなりません。
場合によっては完全休息を促す必要もあるかもしれません。
当然、個人でスポーツを楽しんでいるスポーツ愛好家はこれらを全て自己管理しなければならないのです。
『何かがいつもと違う』と感じたときは早めに医師やトレーナーなどの専門家に相談することをお勧めします。
オーバートレーニングには種類がある?
症状が軽い場合は『オーバーリーチング』と呼ばれ、症状が重度になると『オーバートレーニング』と呼ばれるということは先にも触れました。
実はこのオーバートレーニングは大きく『精神的』『身体的』の二つに大別することができます。
①精神的オーバートレーニング
精神的オーバートレーニングは一般的に専門競技者ほど陥りやすいと言われています。
競技力向上のために運動、強度、量などをあまり考慮に入れず、ただがむしゃらに運動や練習を行うことでオーバートレーニング状態に陥っていってしまうのです。
オーバートレーニング状態になると疲労はどんどん溜まる一方で、やがてそれは全身の倦怠感や練習時の集中力の欠如などの諸症状を引き起こしてしまいます。
当然のことながらパフォーマンスは低下してしまうので良い結果など出せるわけがありません。
場合によってはケガを頻繁に発症するようになってしまうこともあるかもしれません。
しかし、競技者本人は『調子が悪いのは自分のせいだ!トレーニングの強度や量、頻度が足りないから良い結果がでないだけなんだ!』と思い込んでしまうのです。
周りの環境(周囲から過剰な期待感)がそのような状態に競技者を追い込んでいってしまっているのかもしれません。
こうなってしまうとオーバートレーニングの『負のスパイラル』が起きてしまい、やがて競技だけでなく生活面でも睡眠障害が起きたり、意欲の低下、動悸や息切れ、などの諸症状が見られるようになってきます。
やがて、このことを切っ掛けに、競技を継続することは勿論のこと、普段の日常生活にまで支障がきたすようになっていきます。
オーバートレーニングは場合によっては『うつ状態』を招き、重篤な精神疾患に発展しかねないので甘くみると大変危険です。
治療のために長期療養が必要になったり、入院を要する場合もあるので、これを切っ掛けに競技から離れ、引退してしまう競技者も出てきます。
これが『精神的オーバートレーニング』と呼ばれるものです。
かなり個人差(性格的な要素)があるので、誰しもがここまで重篤な状態に陥るとは限りませんが、こうならないためにも家族や指導者、上級者などの周り人がしっかりと競技者をサポートしてあげることが大切になります。
②身体的オーバートレーニング
日常生活を営んでいる程度や軽度な運動を行っているくらいならさほど気にする必要はないと思いますが、この範疇を超えて過度に身体に負担を掛け続けると身体にストレスが溜まり身体に様々な諸症状を引き起こしてしまうことがあります。
例えば、テニス肘、野球肘、ジャンパーズニー、オスグッドシュラッター病、ジャンパーズニー・ランナーズニーなどのいわゆるスポーツ障害がそれに相当します。
これらのスポーツ障害は身体を過使用することによって発症するケースがほとんどです。
勿論、身体が未成熟な頃に身体を酷使してしまうとその発症率は爆発的に高くなります。
上記にあげた傷害を総称して『オーバーユース(つかいすぎ)症候群』といいます。
このように身体を酷使したことによる全身、または体の一部分に起こる筋・腱・関節の痛みを『身体的オーバートレーニング』といいます。
オーバートレーニングの諸症状
オーバートレーニングに陥ると様々なシグナルが身体に現れるようになります。
重篤なオーバートレーニングに陥らないためにもオーバートレーニングの兆候をある程度頭にとどめておく必要があると思います。
①筋トレの効果が出なくなりパフォーマンスが落ちてきた
例えば筋トレを行うと人成長ホルモンや男性ホルモンが刺激されるので普通は筋力がついたり、筋肉が肥大(これを同化といい、筋肉が構築されるという意味です)化します。
しかし、オーバートレーニングに陥ると副腎皮質ホルモンであるコルチゾールの分泌量が増えすぎるため異化(筋肉を分解するという意味)作用が強く働いてしまい筋力の低下や筋肉の萎縮を招きます。
②疲労がとれない
適度な運動強度や量、頻度で運動を実施し、その上で休息と栄養のバランスに気をつけてさえいれば筋肉の疲労はやがてとれ、身体は強くなります。
これを超回復といいますが、これが起こらず疲労感がいつまでたっても抜けず、筋肉が萎縮したり筋力が低下するようならオーバートレーニングを疑います。
③ケガをしやすくなった
一概にいうことができませんがオーバートレーニングに陥ると頻繁に怪我をしやすくなります。
最初のうちは痛めてしまった場所は一カ所かもしれませんが、それを庇っている状態で運動を続けていくとやがて他の場所にも痛みが発症するようになります。
④風邪を引きやすくなった
上気道感染症(風邪症候群)と免疫との関係は非常に有名な話です。
適度な運動をすることで免疫能力を高めることができるのですが、過度な運動を行ってしまうと却って免疫能力が低下してしまいます。
最近、風邪を頻繁にひくようになった、また、風邪の治りが悪いと思ったらオーバーワークを一度疑ってみてください。
⑤貧血がひどくなった
これも一概にいうことが出来ませんが、オーバートレーニングに陥ると赤血球の破壊に対して再生が追い付かなくなってしまうことがあります。
特に足の裏を激しく打ち付けるスポーツ(マラソン、バレー、剣道、バスケットなど)選手に多くみられます。
『スポーツ性貧血』になるとパフォーマンスが低下してしまい、非常に疲れやすい状態に陥ってしまいます。
異常を感じたら速やかに病院にいくことをお勧めます。
⑥集中力が著しく欠ける
オーバートレーニングにより交感神経が過剰に働き過ぎ、落ち着きがなくなってしまったり、集中力が欠如してしまいます。
人によっては不安感で押しつぶされそうになる方もいます。
これは精神的オーバートレーニングの兆候でもあります。
この他にもオーバートレーニングの兆候はたくさんありますが、ひとまずこれだけ覚えておけば早期発見ができると思います。
もしもオーバートレーニングに陥ってしまったら
上述のような各種症状が見られるようになったらまずは運動強度、量、頻度などを少な目にし、休息や栄養を十分に摂るように心掛けてみてください。
これでも解決しない場合は身体の状態を医療機関で診てもらう必要があると思います。
検査は血液検査と心理テストが用いられるのが一般的です。
血液検査ではヘモグロビン値などを調べ、貧血を起こしていたり、肝臓機能に異常が見られるようならオーバートレーニングが疑われます。
ただし、こういった症状は他の病気の可能性もあるので、それらときっちりと見分けることが大切です。
競技に復活する際にはオーバーワークを再発しないよう、くれぐれもパフォーマンスレベルを早く戻そうと焦らないことが大切になります。