前鋸筋の筋力チェック
この記事では、前鋸筋の筋力チェック方法を解説します。
・前鋸筋の筋力チェック手順
・正しい測定のためのポイント
・神経リンパ反射と関連臓器
・翼状肩甲とバンザイ動作の関係
前鋸筋は「肩甲骨を胸郭に貼り付ける筋」。別名「ボクサー筋」とも呼ばれ、肩甲骨の外転+上方回旋に重要な役割を担います。応用キネシオロジー(AK)では肺との関連も研究されています。
前鋸筋とは|ボクサー筋・現代人最弱の筋
前鋸筋の基本情報:
① 起始
・第1〜第9肋骨の外側面
② 停止
・肩甲骨内側縁の前面
③ 主な作用
・肩甲骨の外転
・肩甲骨の上方回旋
・肩甲骨の胸郭への密着
・肩甲骨の前傾防止
④ 神経支配
・長胸神経(C5-C7)
「ボクサー筋」の由来:
前鋸筋は「ボクサー筋」と呼ばれます:
① 機能
・パンチを打つ動作で活躍
・肩甲骨を前方に押し出す
・パワーの伝達
② 発達した姿
・ボクサーの胸郭外側に目立つ
・のこぎりの歯のような形状(前鋸筋の名前の由来)
「肩甲骨を胸郭に貼り付ける」:
前鋸筋の最重要な機能:
① 肩甲骨の胸郭への密着
・肩甲骨を胸郭から離さない
・翼状肩甲の予防
② 「肩甲胸郭関節」の機能
・関節包・靭帯がない機能的関節
・筋肉のみで支えられている
・前鋸筋が安定の主役
「上方回旋の主役」:
肩関節180度挙上には肩甲骨60度の上方回旋が必要:
① 前鋸筋下部繊維=最大の上方回旋筋
② 僧帽筋上部=外側上方への動き
③ 僧帽筋下部=内側下方への動き
これら3筋のフォースカップルで肩甲骨の回旋が成立します。
「現代人最弱の筋」:
前鋸筋は現代人で最も機能低下しやすい筋:
・長時間座位で使われない
・巻き肩で抑制
・翼状肩甲のリスク
・意識的な強化が必須
実施方法

- 患側上肢がベッドの端から肩部が少しはみ出るような位置になるように患者さんに仰臥位になってもらいます。
- 術者は患側上肢の上腕部、前腕部を両手で把握します。この時、患側の肩甲骨を外方へ引っ張り、上腕部を床面に対して垂直に立てるようにします。

- 術者はベッド方向に圧をかけるようにします。患者さんはこの圧に対して、肩甲骨の位置を保てるように頑張ります。
患者さんの肩甲骨が浮き上がるか、位置を保てるかを観察することで前鋸筋の筋力を評価します。




ワンポイント
正しく測定するためのポイント:
・術者は肩甲骨の上に手を置く(触診)
・肩甲骨の動きを観察
・ベッドに対し垂直に圧を加える
・肩甲骨外転位+上腕垂直を維持
「肩甲骨触診」の重要性:
肩甲骨の動きを直接確認することで:
・翼状肩甲の有無を判定
・前鋸筋の活動を実感
・代償動作を防ぐ
「垂直に圧」の意味:
圧の方向が斜めだと:
・正確な評価不能
・他の筋の代償を誘発
・測定誤差
注意事項:
・肩関節の痛みがある場合は中止
・過度な圧は避ける
・段階的に力を加える




論考
判定方法:
この検査を左右両方で実施します。
弱いと感じた側の前鋸筋が弱化している可能性があります。
左右差の意味:
・5%以上の差:要注意
・10%以上の差:明らかな弱化
・左右差なし:正常
前鋸筋弱化が示唆するもの:
・翼状肩甲のリスク
・肩甲骨の動的安定性低下
・バンザイできない(180度挙上困難)
・長胸神経麻痺のサイン
・関連臓器(肺)の機能低下(応用キネシオロジー的視点)
「壁押しテスト(翼状肩甲チェック)」:
前鋸筋機能不全の有名な評価法:
① 方法
1. 壁に向かって立つ
2. 両手で壁を押す
3. 肩甲骨を観察
② 陽性(翼状肩甲)
・肩甲骨が浮き上がる
・「翼」のような外観
・前鋸筋機能不全
③ 原因
・長胸神経麻痺
・前鋸筋筋力低下
・スポーツでの過使用
「バンザイテスト」:
前鋸筋の機能評価に重要:
① 方法
1. 両腕を上に挙げる(バンザイ)
2. 肩甲骨の動きを観察
② 評価
・スムーズに180度:正常
・180度に届かない:上方回旋不足
・代償動作(体幹伸展)あり:要対応
神経リンパ反射点
応用キネシオロジー(AK)における前鋸筋の神経リンパ反射点:
第3〜5肋骨の間、胸骨外側
T3〜T5の椎弓板
これらの部位を軽くマッサージすることで前鋸筋の機能を活性化できると考えられています。
関連臓器・腺
応用キネシオロジーでは前鋸筋は肺と関連すると考えられています。
「肺」との関連:
肺の役割:
・ガス交換
・呼吸機能
・酸素供給
前鋸筋と呼吸の関係:
医学的にも前鋸筋は呼吸補助筋として知られています:
① 強制吸気時
・肋骨を引き上げる
・胸郭を拡張
・呼吸困難時に活動
② COPD・喘息患者
・前鋸筋の活動が顕著
・呼吸困難の代償
③ 呼吸の質との関連
・前鋸筋の機能低下=呼吸の浅さ
・胸郭の柔軟性低下
※注意:応用キネシオロジーの解釈であり、医学的に確立した因果関係ではありません。ただし前鋸筋と呼吸機能の関係は医学的にも知られているため、呼吸器疾患がある場合は呼吸器内科の受診も検討してください。
翼状肩甲とバンザイ動作|現代人の肩甲骨問題
前鋸筋の最大の問題が「翼状肩甲(よくじょうけんこう)」:
翼状肩甲とは:
肩甲骨が翼のように浮き上がる状態:
① 主な症状
・肩甲骨内側縁の浮き上がり
・「翼」のような外観
・肩の動かしにくさ
② 原因
(a) 長胸神経麻痺
・最も多い原因
・外傷・術後・スポーツで発症
(b) 前鋸筋筋力低下
・運動不足
・慢性的な機能低下
(c) その他
・パーソナルセス筋萎縮
・FSHD(顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー)
③ 評価
・壁押しテスト
・視診
・神経伝導検査
「バンザイできない」問題:
前鋸筋の機能不全で:
① 肩甲骨の上方回旋不足
・180度挙上困難
・「腕が上がらない」
② 代償動作
・体幹の伸展
・反対側への側屈
③ 連鎖的問題
・肩関節障害
・腰痛
・スポーツパフォーマンス低下
関連する障害:
① 翼状肩甲
・前述
② スカプラディスキネジア
・肩甲骨の動きの異常
・投球障害肩の主因
・スポーツ選手に多い
③ インピンジメント症候群
・肩甲骨上方回旋不足
・肩峰下スペース狭小
・挙上時の痛み
④ 慢性肩こり
・前鋸筋機能不全
・僧帽筋の代償
・慢性疲労
⑤ 投球障害肩
・肩甲骨機能不全
・キネティックチェーンの破綻
⑥ 巻き肩・猫背
・前鋸筋の機能低下
・姿勢の崩れ
前鋸筋ケアの重要性:
① プッシュアッププラス(最重要)
方法:
1. プッシュアップ姿勢
2. 腕を伸ばしたまま
3. 背中を上に押し上げる(肩甲骨を外転)
4. 戻す
5. 10回×3セット
効果:前鋸筋の選択的強化。
② セラタス・パンチ
方法:
1. 仰向け
2. ダンベルを天井に向けて
3. 腕を伸ばしたまま上に押し上げる
4. 10回×3セット
③ 壁押し(壁スライド)
方法:
1. 壁に向かって立つ
2. 両手で壁を押し続ける
3. 肩甲骨外転位を維持
4. 30秒×3セット
④ ヤンダのプロトコル
・段階的な前鋸筋活性化
・神経筋協調
⑤ 全身連動
・キネティックチェーン
・体幹からの力の伝達
⑥ 姿勢改善
・巻き肩の修正
・胸を開く意識
まとめ
前鋸筋の筋力チェックについて解説してきた内容を整理します。
・仰臥位で肩部をベッド端からはみ出す
・肩甲骨外転+上腕垂直位
・ベッド方向への圧に肩甲骨を保持
・肩甲骨触診+動きの観察が重要
・垂直に圧を加える
・左右比較で弱化を判定
・壁押しテスト・バンザイテストも併用
・神経リンパ反射点:第3〜5肋骨間胸骨外側+T3〜T5椎弓板
・関連臓器(応用キネシオロジー):肺
・「ボクサー筋」=パンチ動作の主役
・肩甲骨を胸郭に貼り付ける機能
・翼状肩甲の原因筋
・長胸神経支配
・現代人最弱の筋=意識的強化必須
前鋸筋の機能評価は翼状肩甲予防+バンザイ動作改善+呼吸機能の参考指標として活用できます。整体・カイロ・トレーナーの現場で活用される基礎的な評価法です。日常的にもプッシュアッププラス+セラタス・パンチ+姿勢改善で前鋸筋の健康を維持しましょう。
参考文献・出典
・厚生労働省 e-ヘルスネット「肩こり」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
・日本整形外科学会「肩関節疾患・翼状肩甲」https://www.joa.or.jp/
・日本肩関節学会「肩関節疾患」https://katakansetsu.jp/
・日本臨床スポーツ医学会「投球障害肩」http://www.rinspo.jp/
・国際応用キネシオロジー学会「Manual Muscle Testing」https://www.icakusa.com/










