下後鋸筋の作用と役割(起始停止・神経支配・筋トレメニューなどを徹底解剖)
下後鋸筋(かこうきょきん)とは胸郭後面の下部にある扁平な筋で広背筋(こうはいきん)の深層部にある筋肉です。英語では「serratus posterior inferior muscle」と呼ばれます。
下後鋸筋は呼気の補助筋として、息を吐くときに下部の肋骨を引き下げて胸郭を狭める働きを担います。普段意識されることはあまりありませんが、横隔膜のパートナーとして呼吸機能を陰で支える重要な筋肉です。
この記事では、次のような疑問にお答えします。
・下後鋸筋の正しい起始停止・作用は?
・なぜ呼気補助筋と呼ばれる?
・上後鋸筋とどう違う?
・呼吸器疾患でなぜ重要?
例え話で言うと、下後鋸筋は「息を吐くときに肋骨を引き下げる隠れた補助筋」のような存在です。背中の下部に扇形に広がり、深い呼吸の際に活躍します。
英語名称
serratus posterior inferior muscle(セレタス・ポスティアリア・インフィアリア・マッスル)
「serratus(鋸歯状の)」+「posterior(後ろの)」+「inferior(下の)」で構成された名称。鋸の歯のような形状から名付けられました。
下後鋸筋の解説
下後鋸筋(かこうきょきん)は胸郭後面の下部にある扁平な筋で、広背筋の深層部にある筋肉です。
下後鋸筋は第12胸椎〜第3腰椎の棘突起と近くの胸腰筋膜から起始し、第9〜12肋骨の外側部の下縁に停止します。
下後鋸筋は主に第9〜12肋骨を下制して息を吐くときに下部の肋骨(下位肋骨には横隔膜が内側に張り付いています)を引き下げ、胸郭を狭めることで呼吸を補助します。
上後鋸筋と下後鋸筋|呼気と吸気の対称関係
下後鋸筋を理解する上で重要なのが上後鋸筋との対称関係です:
上後鋸筋(じょうこうきょきん)
・位置:胸郭後面の上部(首の付け根あたり)
・起始:第6〜7頸椎・第1〜2胸椎の棘突起
・停止:第2〜5肋骨の上縁
・作用:肋骨を引き上げる→吸気を補助
・神経:肋間神経(T1〜T4)
下後鋸筋(かこうきょきん)
・位置:胸郭後面の下部(背中の下部)
・起始:第12胸椎〜第3腰椎の棘突起
・停止:第9〜12肋骨の下縁
・作用:肋骨を引き下げる→呼気を補助
・神経:肋間神経(T9〜T12)
対称的な役割:
2つの後鋸筋は胸郭の上下端で対称的に配置され、上後鋸筋は吸気時、下後鋸筋は呼気時に活躍します。両者が呼吸の補助役として連携することで、深い呼吸が可能になります。
呼吸機能と下後鋸筋|横隔膜のパートナー
下後鋸筋を語る上で重要なのが呼吸機能との関係です。
呼吸の主役筋:
・横隔膜(主要呼吸筋・吸気時に下がる)
・外肋間筋(吸気補助)
・内肋間筋(呼気補助)
・下後鋸筋(呼気補助)
下後鋸筋と横隔膜の関係:
下後鋸筋が停止する下位肋骨(第9〜12肋骨)には横隔膜が内側で張り付いています。下後鋸筋が肋骨を引き下げると、横隔膜の付着部が下方に固定されるため:
・横隔膜の安定
・呼気時の胸郭の縮小
・横隔膜の効率的な動き
つまり下後鋸筋は「横隔膜の固定パートナー」として、深い呼吸を支える重要な役割を果たしているのです。
普通の呼吸 vs 深い呼吸:
・安静時呼吸:主に横隔膜のみで実施。下後鋸筋の関与は少ない
・深呼吸・運動時:下後鋸筋が活発に働いて呼気を補助
・強制呼気(息を強く吐く):下後鋸筋+腹筋群が協働
歌唱・吹奏楽・スポーツの呼吸法では、下後鋸筋を含む呼気補助筋の重要性が高まります。
喘息・COPD患者と下後鋸筋
下後鋸筋は呼吸器疾患のリハビリでも重要視されます。
呼吸器疾患の特徴:
① 喘息
気道の狭窄で息を吐きにくい状態。下後鋸筋を含む呼気補助筋の活躍が必要。
② COPD(慢性閉塞性肺疾患)
肺の弾性低下で呼気がスムーズに行えない。呼気の補助が極めて重要。
③ 肺気腫
肺胞の破壊で呼気機能が低下。下後鋸筋の機能維持が呼吸リハビリの一環。
呼吸リハビリでの下後鋸筋:
・口すぼめ呼吸:ゆっくり長く息を吐く練習
・横隔膜呼吸(腹式呼吸):下後鋸筋+横隔膜の協調
・胸郭可動性のストレッチ:下後鋸筋の柔軟性維持
呼吸器疾患のリハビリでは、下後鋸筋を含む呼吸補助筋のトレーニングが症状緩和に貢献します。
一般の方への応用:
・深呼吸の習慣
・歌唱・吹奏楽
・ヨガの呼吸法
・マラソン・ジョギング
呼吸機能を高めたい方は、下後鋸筋を意識した深呼吸トレーニングがおすすめです。
起始
第12胸椎〜第3腰椎の棘突起と近くの胸腰筋膜
胸椎下部から腰椎上部の棘突起と胸腰筋膜から扇状に起こります。
停止
第9〜12肋骨の外側部の下縁
胸郭の最も下にある4本の肋骨の外側に停止します。
下後鋸筋の主な働き
運動動作においては第9〜12肋骨を下制して、息を吐くときに下部の肋骨を引き下げ、胸郭を狭めることで呼吸を補助します。
主な役割:
・下位肋骨の下制(主作用)
・呼気の補助
・横隔膜の付着部安定
・胸郭の安定
・体幹の伸展補助(小さな貢献)
下後鋸筋を支配する神経
肋間神経(T9〜T12)
下位胸髄レベルの肋間神経に支配されます。
日常生活動作
息を吐くときに胸郭を狭め、呼気を補助します。
具体的には:
・深呼吸(特に呼気)
・咳・くしゃみ
・笑う動作(強い笑い)
・歌唱
・息を強く吐く動作
呼吸の質を陰で支える筋。
スポーツ動作
あらゆるスポーツ動作に関与し、呼気を補助することで呼吸を助けます。
特に重要なスポーツ:
・陸上競技(長距離・短距離)
・水泳(呼吸コントロール)
・武道(気合と呼吸)
・歌唱(クラシック・声楽)
・吹奏楽(楽器演奏)
・ヨガ・ピラティス(呼吸法)
呼吸機能がパフォーマンスに直結するスポーツで活躍します。
関連する疾患
① 呼吸器疾患(喘息・COPD・肺気腫)
呼気機能の低下する疾患で、下後鋸筋を含む呼気補助筋の機能維持が重要。
② 慢性背中痛
下後鋸筋のトリガーポイントが背中下部の痛みの原因に。
③ 筋筋膜性疼痛症候群
下後鋸筋を含む背部筋の慢性的な疼痛。
④ 呼吸機能低下
加齢や運動不足による呼吸補助筋全般の機能低下。
下後鋸筋を効果的に鍛えるポイント
下後鋸筋は呼吸トレーニングを通じて鍛えるのが効果的です。
① 深呼吸トレーニング
鼻から大きく息を吸い、口からゆっくり長く息を吐く。10回×3セット。下後鋸筋を含む呼気補助筋を活性化。
② 口すぼめ呼吸
口を細くすぼめて抵抗を感じながら呼気。COPD患者の呼吸リハビリで使われる方法。
③ 横隔膜呼吸(腹式呼吸)
仰向けで腹に手を当て、お腹を膨らませながら呼吸。下後鋸筋+横隔膜の協調を強化。
④ ピラティスの呼吸法
胸郭を意識した深い呼吸。下後鋸筋を含むインナーマッスルを総合強化。
⑤ ヨガのプラーナヤーマ
古代インドの呼吸法。長く深い呼吸で下後鋸筋を効果的に活性化。
下後鋸筋のストレッチ・セルフケア
①胸郭のストレッチ
両手を頭上で組み、ゆっくり身体を反らせる。胸郭を広げて下後鋸筋をストレッチ。
②側屈ストレッチ
両手を頭上で組み、ゆっくり身体を左右に倒す。下後鋸筋を側方からストレッチ。
③チャイルドポーズ(ヨガ)
正座から両手を前に伸ばして上半身を倒す。背中下部のディープストレッチ。
④テニスボールでのリリース
仰向けでテニスボールを背中下部に当て、ゆっくり圧迫。下後鋸筋への直接アプローチ。
⑤温める
蒸しタオルやお風呂で背中下部を温めると緊張緩和に。
よくある質問(FAQ)
Q1. 下後鋸筋はどこにある?
背中の下部、広背筋の深層に位置する扁平な筋肉。胸椎下部〜腰椎上部から下位肋骨にかけて扇状に広がります。
Q2. なぜ「呼気補助筋」と呼ばれる?
下位肋骨を引き下げて胸郭を狭める作用で、息を吐く動作を助けるためです。横隔膜の付着部を安定させる役割も持ちます。
Q3. 上後鋸筋とどう違う?
下後鋸筋は呼気補助(肋骨を下げる)、上後鋸筋は吸気補助(肋骨を上げる)。胸郭の上下で対称的に配置され、呼吸の両方向をサポートします。
Q4. 喘息やCOPDで重要なの?
はい、これらの疾患では呼気機能が低下するため、下後鋸筋を含む呼気補助筋の働きが重要。呼吸リハビリの中核となる筋の一つです。
Q5. 下後鋸筋を鍛えるメリットは?
呼吸機能の向上・歌唱や楽器演奏の上達・スポーツのスタミナ向上・呼吸器疾患のリハビリ。
Q6. 下後鋸筋のセルフケアは?
深呼吸トレーニング+胸郭ストレッチ+テニスボールリリースがおすすめ。1日10分の深呼吸で十分活性化できます。
まとめ
下後鋸筋について解説してきた内容を整理します。
・第12胸椎〜第3腰椎の棘突起から起こり、第9〜12肋骨に停止
・広背筋の深層に位置する扁平な筋
・主作用は下位肋骨の下制+呼気補助
・支配神経は肋間神経(T9〜T12)
・横隔膜のパートナーとして呼吸機能を補助
・上後鋸筋と呼気・吸気で対称的な役割
・喘息・COPDのリハビリで重要
・深呼吸・ヨガ・ピラティスで鍛えられる
下後鋸筋は普段意識されない隠れた筋肉ですが、呼吸機能を陰で支える重要な存在です。呼吸の質を高めたい方、呼吸器疾患のリハビリ中の方、歌唱や楽器演奏のパフォーマンスを上げたい方は、下後鋸筋を意識した深呼吸トレーニングを日常に取り入れていきましょう。
その他の腹部・腰部の筋肉
【腹直筋・腹斜筋群(外腹斜筋・内腹斜筋)・腸腰筋(腸骨筋・大腰筋・小腰筋)・腹横筋・腰方形筋・脊柱起立筋(胸腸肋筋・腰腸肋筋・胸最長筋・胸棘筋・多裂筋)・横隔膜・骨盤底筋群】
参考文献・出典
・Wikipedia「下後鋸筋」https://ja.wikipedia.org/wiki/下後鋸筋
・看護roo!「下後鋸筋」https://www.kango-roo.com/word/20107
・日本呼吸器学会「COPD診療ガイドライン」https://www.jrs.or.jp/
・厚生労働省 e-ヘルスネット「呼吸機能」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
・rehatora.net「下後鋸筋の解剖と機能・触診」https://rehatora.net/




