肩関節の水平内転・水平外転とは|働き・関与する筋肉・可動範囲を解説

肩関節の水平内転・水平外転とは

図のように肩関節屈曲または外転した状態からの内側ないしは前方向への水平の動き水平内転、または水平屈曲といいます。

肩関節の水平内転に関わる代表的な筋肉として大胸筋三角筋前部などがあげられます。

水平外転は肩関節を屈曲または外転した状態からの外側ないしは後方向への水平の動きをいい、この動きはまたは水平伸展ということもあります。

水平外転に関わる代表的な筋肉として三角筋後部・棘下筋小円筋があげられます。

  • 直立姿勢に於いて水平内転・水平外転を行うためには棘上筋・三角筋の中部は重力の影響を受けるために常に大きな力を発揮しなければなりません

この記事では、次のような疑問にお答えします。

水平内転・水平外転とは?
どの筋肉が関わる?
正常な可動範囲は?
巻き肩との関係は?

例え話で言うと、肩関節の水平内転・水平外転は「胸を開く・閉じる水平面の扉」のような動きです。胸を開く=水平外転、胸を閉じる=水平内転。日常の押す・引く動作の基盤となる重要な動きです。

水平面での動き|肩関節の3つ目の自由度

水平内転・水平外転は「水平面(horizontal plane)」での動き:

3つの運動面と肩関節

① 矢状面
屈曲・伸展
・前後の動き

② 冠状面
外転・内転
・横の挙上

③ 水平面
水平内転・水平外転(本記事)
・水平面での前後の動き

肩関節は3つの自由度を持つ唯一の関節で、これにより球状の可動域が実現します。

水平内転と水平外転のスタートポジション

両者は90度の外転または屈曲状態から始まります:

① 屈曲90度(前方挙上)から
内側に水平移動=水平内転
外側に水平移動=水平外転

② 外転90度(側方挙上)から
前方に水平移動=水平内転
後方に水平移動=水平外転

つまり「腕を真横の状態」から前後どちらに動かすかで決まります。

「押す動作」と「引く動作」

水平内転・水平外転は日常生活の基本動作と密接に関連:

水平内転=押す動作
ドアを押す
ボールを投げる
ベンチプレス
ハグ

水平外転=引く動作
ドアを引く
胸を張る
引っ張り動作
翼を広げる

これらは私たちが意識しなくても毎日何百回も行っている動作です。

midashi肩関節の水平内転・水平外転に関与する筋肉

水平内転:大胸筋三角筋前部

水平外転:三角筋後部・棘下筋小円筋

水平内転に関与する筋肉の詳細

① 大胸筋
胸部前面を覆う最大の筋
水平内転の主役
「胸を閉じる」動作

② 三角筋前部
肩関節前面
・水平内転を補助
・屈曲も担当

補助筋
烏口腕筋
上腕二頭筋短頭

水平外転に関与する筋肉の詳細

① 三角筋後部
肩関節後面
水平外転の主役

② 棘下筋
肩甲骨後面
ローテーターカフの1つ
・水平外転+外旋

③ 小円筋
肩甲骨外側
・ローテーターカフの1つ
・水平外転+外旋

補助筋
菱形筋(肩甲骨の引き寄せ)
僧帽筋中部(肩甲骨の引き寄せ)

水平内転と水平外転の力比較|現代人の前後筋バランス

水平内転と水平外転の力には大きな差があります:

力の比較

水平内転筋(前面)
大胸筋+三角筋前部
大きな筋総量
強い力
男性的な筋肉のイメージ

水平外転筋(後面)
三角筋後部+棘下筋+小円筋
小さな筋総量
力は中程度
姿勢制御筋のイメージ

力の比率
水平内転:水平外転=約3:1

進化的な背景

なぜこの力の差があるのか:

① 押す動作の重要性
狩り・防衛での押す動作
木登りでの体支持

② 樹上生活時代の名残
枝を引き寄せる動作
・大胸筋の発達

③ 現代人特有の偏り
デスクワークでの前傾姿勢
スマホ操作
運動不足

現代人の「前後バランス問題」

現代人の生活スタイルで前面筋優位がさらに加速:

① 大胸筋・三角筋前部=常に短縮
② 三角筋後部・菱形筋・中部僧帽筋=常に伸長

結果として:
巻き肩
猫背
胸郭の硬化
呼吸の浅さ

トレーニングでは水平外転(プル系)を意識的に強化することで前後バランスを取り戻せます。

推奨される筋トレ比率

プッシュ(水平内転):1セット
プル(水平外転)2セット

現代人はプル系を2倍行うのが理想です。

midashi可動範囲

水平内転:0〜135°
水平外転:0〜30°

可動範囲の詳細

水平内転
0〜135度
・反対側の胸まで腕が届く程度
非常に大きな可動域

水平外転
0〜30度
・後方への限定的な可動域
水平内転の約4分の1

可動域の非対称

水平内転と水平外転の可動域には明確な非対称性があります:

非対称の理由

① 肩関節の構造
関節窩の向き
・上腕骨頭の後方への動き制限

② 軟部組織の制限
前方の関節包は緩い
後方の関節包は硬い

③ 肩甲骨の動き
水平外転には肩甲骨の内転が必要。

④ 進化的な要因
前方への動作が日常的
後方への動作は限定的

年齢別の目安

水平内転
20代:130〜135度
40代:120〜135度
60代:110〜130度
80代:100〜120度

水平外転
20代:30度
40代:25〜30度
60代:20〜25度
80代:15〜25度

制限の意味

可動範囲の低下は:
巻き肩・猫背
大胸筋の短縮
肩関節包の硬化
肩こり

を示唆します。

midashi主な運動、スポーツ動作

ダンベルフライ水泳(平泳ぎ)・テニスのスイング

各種目での役割

① ダンベルフライ
大胸筋の専門トレーニング
・水平内転の典型動作
・胸の筋肥大に最適

② 水泳(平泳ぎ)
キャッチ動作=水平外転
プル動作=水平内転
・両動作を交互に使う

③ テニスのスイング
テイクバック=水平外転
フォロースルー=水平内転
・スピード+パワー

その他の重要なスポーツ

④ 野球(投球・打撃)
テイクバック=水平外転
リリース=水平内転
・両動作のスピード差

⑤ ゴルフ
バックスイング=水平外転
ダウンスイング=水平内転

⑥ ボクシング
パンチ動作=水平内転
ガード解除=水平外転

⑦ レスリング・柔道
組み合い=水平内転
突き放し=水平外転

⑧ バドミントン
スマッシュ=水平内転
テイクバック=水平外転

⑨ クライミング
体を引き寄せる=水平内転
次のホールド=水平外転

日常生活でも物を抱きしめる・押す・引く・スマホ操作・運転(ハンドル)などで頻繁に使われます。

巻き肩と現代人の問題|前後筋バランスの崩壊

水平内転・水平外転の問題は「巻き肩」に集約されます:

巻き肩とは

肩が前方に巻き込まれた状態

① 見た目
肩が前方に出ている
胸が閉じている
背中が丸い

② 解剖学的特徴
大胸筋の短縮
肩甲骨の外転
上腕骨頭の前方変位

③ 触診
仰向けに寝た時、肩が床から浮く

現代日本での増加

日本人の約7〜8割が巻き肩傾向:

主な原因

① デスクワーク
長時間のキーボード操作
・前傾姿勢
・肩が前に出る

② スマホ操作
下を向く姿勢
・肩の内巻き

③ 運動不足
背中の筋力低下
・前後バランスの崩壊

④ 不適切なトレーニング
プッシュ系のみのトレーニング
・大胸筋ばかり鍛える

⑤ ストレス
無意識の防御姿勢
・肩の内巻き

巻き肩の影響

① 肩こり・首こり
菱形筋・僧帽筋の慢性的疲労
・血流不良

② 呼吸の浅さ
胸郭の柔軟性低下
・横隔膜の動き制限
慢性的な酸素不足

③ 肩関節の障害
インピンジメント症候群
四十肩・五十肩
腱板炎

④ 頸椎症
ストレートネックとの連鎖
頚椎への負担

⑤ 自律神経の乱れ
胸郭の硬化
交感神経優位
不眠・疲労

⑥ 見た目の老化
姿勢が悪く見える
胸が小さく見える
実年齢以上に老けて見える

セルフチェック

① 仰向けテスト

方法
1. 床に仰向けに寝る
2. 肩が床につくか確認

評価
肩が完全に床につく:正常
肩と床に隙間:巻き肩
強い浮き上がり:要対応

② 壁テスト

方法
1. 壁に背中をつけて立つ
2. 肩・後頭部・お尻・かかとがつくか

評価
全て自然につく:正常
肩が浮く:巻き肩
無理にやろうとして痛む:胸郭硬化

③ 拳テスト

方法
1. 両手を背中の後ろに
2. 両拳を合わせる
3. 反対の肘を反対の手でつかむ

評価
左右とも余裕でできる:正常
片側だけ硬い:要対応
両側とも不可能:重度

巻き肩の改善法

① 水平外転トレーニング
リバースフライ
ロウイング
フェイスプル

② 大胸筋ストレッチ
胸郭の柔軟性向上
・1日3〜5回

③ 肩甲骨運動
菱形筋・僧帽筋中部強化
肩甲骨の内転を意識

④ 姿勢意識
胸を開く意識
肩を後ろに引く

⑤ デスクワーク環境
モニターの高さ調整
定期的な休憩

⑥ スマホの持ち方
目線の高さ
・両手で持つ

セルフチェックと予防ストレッチ

セルフチェック

① 水平内転可動域テスト

方法
1. 腕を水平に前に出す
2. 反対側の肩へ移動
3. あごの下まで来るか確認

評価
反対側の肩につく:正常(135度)
胸の中央まで:軽度制限(90度)
身体の中央まで:要対応(45度)

② 水平外転可動域テスト

方法
1. 腕を水平に前に出す
2. 真横の位置からさらに後ろへ
3. 後方への動きを確認

評価
真横から30度後ろ:正常
真横位置のみ:軽度制限
真横まで届かない:要対応

予防ストレッチ

① 胸を開くストレッチ(基本)

方法
1. 両手を頭の後ろに組む
2. 肘を後ろに引く
3. 胸の伸びを感じる
4. 30秒×3回

効果:大胸筋+三角筋前部のストレッチ。

② 壁押しストレッチ

方法
1. 壁に向かって立つ
2. 片手を壁につく
3. 身体を反対側に回す
4. 胸の片側の伸びを感じる
5. 30秒×3回×左右

③ ドアフレームストレッチ

方法
1. ドアフレームに両肘をつく
2. 身体を前に傾ける
3. 大胸筋の強い伸び
4. 30秒×3回

④ リバースフライ(水平外転強化)

方法
1. 軽いダンベルを持つ
2. 前傾姿勢
3. 両腕を真横に開く
4. 10回×3セット

効果:三角筋後部+菱形筋強化。

⑤ フェイスプル

方法
1. ロープを顔の高さに設定
2. 両手で顔に引く
3. 肘は外側に開く
4. 10〜15回×3セット

頻度の目安

毎日のケアが推奨。朝・夜の5分でも継続することで巻き肩予防に効果的。

注意事項
痛みがある場合は中止
急性期は安静優先
整形外科での相談を優先

胸を開く意識+背中を引き寄せる動作で、現代人の典型的な姿勢問題を予防+改善しましょう。

まとめ

肩関節の水平内転・水平外転について解説してきた内容を整理します。

水平面での腕の動き
・水平内転=胸を閉じる動き(押す)
・水平外転=胸を開く動き(引く)
・水平内転筋:大胸筋・三角筋前部
・水平外転筋:三角筋後部・棘下筋・小円筋
力の比率:内転3:外転1
・正常可動域:水平内転135度・水平外転30度
・主なスポーツ:ダンベルフライ・水泳(平泳ぎ)・テニス
・現代人の問題:巻き肩・猫背
プル系を2倍のトレーニングが理想
胸を開くストレッチ+背中の強化で予防

肩関節の水平内転・水平外転は「胸を開く・閉じる水平面の扉」として、私たちの日常の押す・引く動作のすべてに関わる重要な動きです。現代人の「前面筋優位の巻き肩」を改善するため、水平外転(プル系)を意識的に強化し、前後バランスの取れた肩関節を維持しましょう。

参考文献・出典

・厚生労働省 e-ヘルスネット「肩こり」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/

・日本整形外科学会「肩関節周囲炎」https://www.joa.or.jp/

・日本肩関節学会「肩関節疾患」https://katakansetsu.jp/

・日本理学療法士協会「姿勢と肩関節」https://www.japanpt.or.jp/

・rehatora.net「肩関節の機能解剖」https://rehatora.net/

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