肩関節の屈曲・伸展とは
図のように前方に上腕を挙上する動作を屈曲といいます。
更に90度を越え180度まで屈曲させた場合を前方挙上と呼ぶこともあります。
肩関節の屈曲に関わる代表的な筋肉として三角筋前部・大胸筋上部・烏口腕筋などがあげられます。
この記事では、次のような疑問にお答えします。
・肩関節の屈曲・伸展とは?
・どの筋肉が関わる?
・正常な可動範囲は?
・四十肩・五十肩との関係は?
例え話で言うと、肩関節は「人体で最も自由な関節」です。可動範囲が広い分、構造的に不安定でもあり、現代人の四十肩・五十肩・スマホ肩など様々な問題が発生する関節でもあります。
肩関節の特殊性|人体最大の可動域を持つ球関節
肩関節は他の関節と比較して圧倒的な可動性を持ちます:
肩関節(肩甲上腕関節)の構造:
① 球関節(きゅうかんせつ)
・上腕骨頭(球)+肩甲骨関節窩(受け皿)
・3軸自由度(屈伸・内外転・回旋)
・人体最大の可動域
② 関節窩が浅い
・受け皿が非常に浅い
・大きな自由度の代償
・構造的に不安定
③ 関節包・靭帯による安定
・関節包
・上腕骨上腕靭帯
・烏口上腕靭帯
④ 回旋筋腱板(ローテーターカフ)
・棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋
・上腕骨頭を関節窩に押し付ける
・動的安定性の主役
「肩複合体」としての肩:
実は「肩」は1つの関節ではなく、4つの関節の協調動作で構成されます:
① 肩甲上腕関節(一般的な「肩関節」)
② 肩鎖関節(鎖骨と肩甲骨)
③ 胸鎖関節(鎖骨と胸骨)
④ 肩甲胸郭関節(肩甲骨と胸郭、機能的関節)
これらが連動することで180度の挙上が可能になります。
スカプロハメラルリズム:
肩の挙上時には「肩甲骨と上腕骨の協調動作」があります:
① 0〜30度
・主に肩甲上腕関節
・上腕骨の動き中心
② 30〜60度
・肩甲骨が動き始める
・上腕骨2:肩甲骨1の比率
③ 60度以降
・「2:1のリズム」
・上腕骨2度の動きに対し肩甲骨1度
④ 180度挙上
・上腕骨120度+肩甲骨60度
このリズムが崩れると肩の障害に繋がります。
肩関節の屈曲・伸展に関与する筋肉
屈曲に関与する筋肉の詳細:
① 三角筋前部
・肩関節の前面表層
・屈曲の主役
・最大の収縮力
② 大胸筋上部
・胸の前面上部
・屈曲+水平内転
・押し出し動作で活躍
③ 烏口腕筋
・上腕の内側深層
・屈曲+内転
・補助的役割
伸展に関与する筋肉の詳細:
① 広背筋
・背中の広範囲を覆う
・最大の伸展筋
・引く動作で活躍
② 大円筋
・肩甲骨外側下方
・「広背筋の小さな相棒」
・伸展+内旋
③ 小円筋
・肩甲骨外側
・ローテーターカフの1つ
・伸展+外旋
④ 三角筋後部
・肩関節後面
・伸展+水平外転
補助筋:
屈曲の補助:
・上腕二頭筋(特に短頭)
・三角筋中部(後半)
伸展の補助:
・上腕三頭筋長頭
・菱形筋(肩甲骨の固定)
協調動作の重要性:
肩の屈曲・伸展は多数の筋肉の協調で成立します:
① 主動作筋:実際に動かす筋
② 拮抗筋:反対の動きをする筋(コントロール)
③ 安定筋:関節の安定を保つ筋
④ 共同筋:補助的に働く筋
特にローテーターカフ(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)が常に活動して上腕骨頭を関節窩に押し付けることで、安定した動作が可能になります。




可動範囲
屈曲:0〜180°
伸展:0〜60°
正常範囲の詳細:
屈曲:
・0〜180度
・腕を真上まで挙げる
・人体最大の関節可動域
伸展:
・0〜60度
・腕を後ろに反らす
・屈曲の3分の1
0〜180度の内訳:
① 0〜90度(前方挙上)
・主に肩関節
・日常的によく使う範囲
② 90〜120度
・肩甲骨の動きが大きくなる
・スカプロハメラルリズム
③ 120〜180度(バンザイ)
・肩甲骨の上方回旋
・体幹の伸展も加わる
・最大可動域
年齢別の目安:
屈曲:
・20代:180度
・40代:170〜180度
・60代:150〜170度
・80代:130〜160度
伸展:
・20代:60度
・40代:50〜60度
・60代:40〜50度
・80代:30〜40度
制限の意味:
可動範囲の低下は:
・四十肩・五十肩
・腱板断裂
・インピンジメント症候群
・変形性肩関節症
を示唆します。
肩の動きの可動範囲一覧:
・屈曲:0〜180度(本記事)
・伸展:0〜60度(本記事)
・外転:0〜180度
・内転:0〜75度(体幹を超えて)
・外旋:0〜90度
・内旋:0〜80度
肩関節はすべての方向に大きな可動域を持つ唯一の関節です。




主な運動、スポーツ動作
フロントレイズ・ロウプーリー・ソフトボールのピッチング・体操・水泳(自由形・背泳)
各種目での役割:
① フロントレイズ
・三角筋前部のトレーニング
・肩関節屈曲の典型
② ロウプーリー(シーテッドロウ)
・広背筋・大円筋のトレーニング
・肩関節伸展の典型
③ ソフトボールのピッチング
・アンダースロー=肩関節屈曲+伸展
・腕を後方から前方へ振る動作
④ 体操
・つり輪・鉄棒・床運動
・全可動域を使う
⑤ 水泳
・自由形=屈曲+伸展の繰り返し
・背泳=屈曲+過伸展
・バタフライ=両肩同時
その他の重要なスポーツ:
⑥ 野球
・投球動作
・バッティング
・全方向の動作
⑦ テニス・バドミントン
・サーブ・スマッシュ
・繰り返しの上方挙上
⑧ ボウリング
・後方への伸展
・前方への屈曲
⑨ ゴルフ
・テイクバック+フォロースルー
・両肩の協調動作
⑩ クライミング
・引き上げ動作(伸展)
・到達動作(屈曲)
⑪ ヨガ
・多様な肩のポジション
・柔軟性向上
日常生活でも洗濯物を干す・棚から物を取る・運転・パソコン操作などで頻繁に使われます。
四十肩・五十肩と現代人の問題|肩関節障害の予防
肩関節の最大の問題が「四十肩・五十肩」です:
四十肩・五十肩(凍結肩)とは
肩関節周囲炎の俗称:
① 発症年齢
・40代〜60代に多い
・名前の由来
② 主な症状
・肩の痛み
・可動域制限
・夜間痛(特に痛い)
・日常動作の困難
③ 病態
・関節包の炎症
・関節包の癒着
・「凍結肩(frozen shoulder)」とも
④ 自然経過
・炎症期(3〜9ヶ月)
・拘縮期(4〜12ヶ月)
・回復期(5〜26ヶ月)
・合計2〜3年かかることも
典型的な症状の進行:
第1段階:痛み中心
・肩の痛み
・夜間痛で眠れない
・徐々に可動域制限
第2段階:可動域制限中心
・痛みは軽減
・動かない状態に
・「結帯動作」「結髪動作」困難
第3段階:回復期
・徐々に可動域回復
・痛み消失
・完全回復には時間がかかる
四十肩・五十肩の原因:
① 加齢による変性
・関節包・腱の変性
・血流低下
② 運動不足
・肩の動かさない時間が長い
・筋力低下
③ 同じ姿勢の長時間
・デスクワーク
・スマホ操作
④ 過去の肩の使いすぎ
・スポーツや仕事
・蓄積疲労
⑤ ホルモンバランス
・女性の更年期に多い
・エストロゲン低下
⑥ 糖尿病
・糖尿病患者に発症リスク2〜4倍
・血流障害が関与
その他の肩関節障害:
① インピンジメント症候群
・腱板が肩峰に挟まる
・挙上時の痛み
・40代〜の発症
② 腱板断裂
・棘上筋に多発
・挙上不能
・手術が必要なことも
③ 肩こり
・僧帽筋上部の慢性緊張
・現代人の最大の不調
④ ストレートネック由来の肩こり
・頚部と肩の連鎖
⑤ 反復性肩関節脱臼
・若年スポーツ選手に多い
・脱臼を繰り返す
予防と改善:
① 定期的な肩の運動
・1日数回の肩回し
・全可動域を使う
② 姿勢改善
・ストレートネック予防
・猫背改善
③ 適度な筋トレ
・ローテーターカフ強化
・三角筋・広背筋強化
④ ストレッチ
・肩周りの筋を柔軟に
・胸郭の柔軟性
⑤ 早期受診
・痛みが2週間以上続く場合
・整形外科へ
屈曲・伸展のセルフチェックと予防ストレッチ
セルフチェック:
① 屈曲可動域テスト
方法:
1. 直立する
2. 腕を前から上に挙げる
3. 腕が耳につくか確認
評価:
・腕が耳の真横につく:正常(180度)
・耳の手前:軽度制限(150〜170度)
・水平止まり:重度制限(90度)
② 伸展可動域テスト
方法:
1. 直立する
2. 腕を後ろに振る
3. 後方への可動域を確認
評価:
・60度後方まで:正常
・40〜60度:軽度制限
・40度未満:要対応
③ 結帯動作テスト(特に重要)
方法:
1. 手を背中の後ろに回す
2. 手を背中で上に滑らせる
3. どこまで届くか確認
評価:
・肩甲骨に届く:正常
・胸椎中部:軽度制限
・腰付近:要対応
④ 結髪動作テスト
方法:
1. 髪を結ぶ姿勢を取る
2. 両手を頭の後ろへ
3. スムーズにできるか確認
評価:日常動作の指標。
予防ストレッチ:
① 振り子運動(最も安全)
方法:
1. テーブルや椅子に片手をつく
2. もう片方の腕を下に垂らす
3. 前後・左右・円に振る
4. 1〜2分間
効果:
・関節包のリリース
・四十肩予防に最適
② 肩甲骨回し
方法:
1. 両肩に手を置く
2. 肘で大きな円を描く
3. 前回し10回・後ろ回し10回
③ 壁登りエクササイズ
方法:
1. 壁に向かって立つ
2. 指で壁を登るように
3. 徐々に高く
④ 大胸筋ストレッチ
方法:
1. 壁に手をつく
2. 身体を反対側に回す
3. 胸の伸びを感じる
4. 30秒×3回
⑤ 広背筋ストレッチ
方法:
1. 両手を頭の上で組む
2. 横に倒す
3. 脇の下〜背中の伸び
4. 30秒×3回×左右
頻度の目安:
毎日のケアが推奨。1日3〜5分でも継続することが四十肩予防に効果的。
注意事項:
・強い痛みがある場合は中止
・急性期の四十肩では負荷の強い運動は避ける
・整形外科での相談を優先
肩関節は「動かさないと固まる」関節。意識的なケアで一生使える肩を維持しましょう。
まとめ
肩関節の屈曲・伸展について解説してきた内容を整理します。
・人体最大の可動域を持つ球関節
・4つの関節の協調で動く(肩複合体)
・スカプロハメラルリズム(2:1)が重要
・屈曲の筋肉:三角筋前部・大胸筋上部・烏口腕筋
・伸展の筋肉:広背筋・大円筋・小円筋・三角筋後部
・ローテーターカフが動的安定の主役
・正常可動域:屈曲180度・伸展60度
・主なスポーツ:フロントレイズ・ロウプーリー・体操・水泳
・現代人の問題:四十肩・五十肩・インピンジメント
・振り子運動+ストレッチで予防
肩関節は「人体で最も自由な関節」として、私たちの日常動作・スポーツ・コミュニケーションのすべてを支えています。自由さの代償として様々な障害が起こりやすい関節でもあるため、定期的なケア+早期発見で一生使える肩を維持しましょう。
参考文献・出典
・厚生労働省 e-ヘルスネット「肩こり」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
・日本整形外科学会「肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)」https://www.joa.or.jp/
・日本肩関節学会「肩関節疾患」https://katakansetsu.jp/
・日本理学療法士協会「肩関節リハビリテーション」https://www.japanpt.or.jp/
・rehatora.net「肩関節の機能解剖」https://rehatora.net/








