肩甲骨の挙上・下制とは|働き・関与する筋肉・可動範囲・肩こり予防を解説

肩甲骨の挙上・下制とは

肩甲骨を上方(頭方)に引き上げる動作挙上といいます。

肩甲骨の挙上に関わる代表的な筋肉として肩甲挙筋菱形筋僧帽筋上部などがあげられます。

この肩甲骨の挙上動作に連動した上腕骨の動きは過伸展、肩甲骨を下方(足方)に引き下げる動作下制または引き下げといいます。肩甲骨の下制に関わる代表的な筋肉として僧帽筋下部・前鋸筋(下部線維)小胸筋などがあげられます。

しかし、直立姿勢に於いては抵抗が加えられていない限りは肩甲骨の下制を引き起こすのはあくまでも重力です。

このとき肩甲挙筋・僧帽筋上部はエクセントリックにまたはアイソメトリックに活動しています。

この記事では、次のような疑問にお答えします。

肩甲骨の挙上・下制とは?
どの筋肉が関わる?
正常な可動範囲は?
肩こりとの関係は?

例え話で言うと、肩甲骨は「背中の翼」のような存在です。挙上・下制は翼を上下に動かす動作で、私たちの肩こり・姿勢・呼吸のすべてに密接に関わっています。

肩甲骨の6方向動作|挙上・下制の位置づけ

肩甲骨は身体の中で最も自由に動く骨です:

肩甲骨の動作6方向

① 挙上(きょじょう)
・肩甲骨を上方へ
・「肩をすくめる」動き

② 下制(かせい)
・肩甲骨を下方へ
・「肩を下げる」動き

③ 内転(ないてん)
・肩甲骨を背骨側へ
・「胸を張る」動き

④ 外転(がいてん)
・肩甲骨を外側(脇側)へ
・「猫背・巻き肩」の動き

⑤ 上方回旋(じょうほうかいせん)
・肩甲骨が外上方に回転
・「バンザイ」時の動き

⑥ 下方回旋(かほうかいせん)
・肩甲骨が内下方に回転
・「気をつけ」姿勢

挙上・下制はこの6方向の1組。垂直方向の動きを担当します。

肩甲骨の特殊性

肩甲骨は「肩甲胸郭関節」を介して胸郭の上を滑るように動きます:

① 真の関節ではない
通常の関節(軟骨で接続)ではなく、筋肉のみで支えられた機能的関節

② 17個の筋肉が付着
挙上筋:肩甲挙筋・菱形筋・僧帽筋上部
下制筋:僧帽筋下部・前鋸筋下部・小胸筋
内転筋:菱形筋・僧帽筋中部
外転筋:前鋸筋
回旋筋:多数

③ 自由度の高さ
これだけの筋肉が支えるため大きな可動性を持ちます。

「肩甲骨は背中の翼」

両方の肩甲骨が翼のように背中に位置し、自由に動くことで上肢の幅広い動作を可能にしています。肩関節の180度挙上には肩甲骨の60度上方回旋が必須で、肩甲骨なしには大きな腕の動きはできません。

midashi肩甲骨の挙上・下制に関与する筋肉

挙上:肩甲挙筋菱形筋僧帽筋上部

下制:僧帽筋下部・前鋸筋(下部線維)小胸筋

挙上に関与する筋肉の詳細

① 肩甲挙筋(けんこうきょきん)
頚椎横突起〜肩甲骨上角
「肩こりの主役」
挙上の主要筋
・現代人で最も疲労する筋

② 菱形筋(大菱形筋・小菱形筋)
胸椎・頚椎〜肩甲骨内側縁
挙上+内転+下方回旋
・肩甲骨の安定化

③ 僧帽筋上部
後頭骨・頚椎〜鎖骨外側
挙上の最大筋
・「肩こり」の主役

下制に関与する筋肉の詳細

① 僧帽筋下部
胸椎下部〜肩甲棘
下制+下方回旋
姿勢制御に重要

② 前鋸筋(下部線維)
肋骨〜肩甲骨内側縁
下制+外転+上方回旋
・「ボクサー筋」とも

③ 小胸筋
肋骨〜烏口突起
下制+下方回旋+前傾
・呼吸補助筋

挙上筋と下制筋のアンバランス

現代人は挙上筋優位の傾向:

挙上筋(過緊張)
肩甲挙筋=硬い
僧帽筋上部=硬い
菱形筋=硬い

下制筋(機能低下)
僧帽筋下部=弱い
前鋸筋下部=機能低下

このアンバランスが肩こり・巻き肩・猫背の根本原因です。

midashi可動範囲

挙上:0〜20°
下制:0〜10°

可動範囲の詳細

挙上
0〜20度(約10cm程度)
・肩をすくめる動作

下制
0〜10度(約5cm程度)
挙上の半分

挙上>下制の理由:

なぜ挙上の方が大きいか:

① 通常位置の偏り
・肩甲骨はやや上に位置
・下げる余地が少ない

② 解剖学的制限
鎖骨の存在
・下制は鎖骨が邪魔をする

③ 機能的な要求
挙上は防御動作(驚いた時など)
・大きな動きが必要

年齢別の目安

挙上
20代:20度
40代:15〜20度
60代:10〜15度
80代:5〜10度

下制
20代:10度
40代:8〜10度
60代:5〜8度
80代:3〜5度

制限の意味

可動範囲の低下は:
肩こり
肩甲挙筋の硬化
肩甲胸郭関節の機能不全
巻き肩・猫背

を示唆します。

肩甲骨の全可動範囲一覧

挙上:0〜20度(本記事)
下制:0〜10度(本記事)
外転:0〜20cm程度
内転:0〜15cm程度
上方回旋:0〜60度
下方回旋:0〜10度

midashi主な運動、スポーツ動作

ショルダーシュラッグバックプレスボクシング・レスリング

各種目での役割

① ショルダーシュラッグ
挙上の専門トレーニング
僧帽筋上部・肩甲挙筋強化
・首〜肩のラインを作る

② バックプレス
背中側のプレス動作
挙上+上方回旋
・三角筋+僧帽筋上部

③ ボクシング
ガード姿勢での挙上
顎を守る
・繰り返しの挙上動作

④ レスリング・柔道
組み手での挙上
投げ技での下制
・全身の連動

その他の重要なスポーツ

⑤ 水泳
ストロークでの下制
・推進力を生む
・前鋸筋下部の活躍

⑥ 野球の投球
テイクバックでの挙上
フォロースルーでの下制

⑦ 体操・吊り輪
サポート姿勢で下制
・前鋸筋下部の最大活動

⑧ クライミング
引きつけでの下制
・体を引き上げる動作

⑨ 重量挙げ
クリーン動作で挙上
ジャーク動作で下制

日常生活でも重い物を持ち上げる・荷物を背負う・スマホ操作(無意識の挙上)などで頻繁に使われます。

肩こりと肩甲骨|挙上筋優位の現代人問題

肩甲骨の挙上・下制の最大の問題が「肩こり」です:

肩こりの主犯

肩こりは挙上筋の慢性的緊張が主因:

① 肩甲挙筋
・最もこりやすい筋
・首〜肩のライン

② 僧帽筋上部
「肩こり」の代名詞
・首〜肩〜背中上部

③ 菱形筋
肩甲骨内側のこり
・「肩甲骨の内側がジワジワ」

肩こりの発生メカニズム

① 持続的な挙上位
頭を支えるため挙上筋が常に活動
・特にスマホ・PC操作

② 血流不良
・持続的収縮で血管圧迫
疲労物質蓄積

③ 痛みの悪循環
痛み→筋緊張→血流不良→痛み
「ペインスパイラル」

④ 自律神経の乱れ
交感神経優位
不眠・疲労

「無意識の挙上」

現代人は無意識に肩を挙上している時間が長い:

主な原因

① ストレス
防御反応として挙上
・「肩に力が入る」

② スマホ操作
下を向く姿勢
・無意識の挙上

③ PCワーク
マウス操作での右肩挙上
キーボードでの両肩挙上

④ 寒さ
身を縮める動作
・冬場の肩こり増加

⑤ 浅い呼吸
呼吸補助筋として挙上筋活動
・呼吸が浅いと挙上筋疲労

肩こり改善の鍵:下制筋の強化

肩こり改善には下制筋を意識的に鍛えるのが効果的:

① 僧帽筋下部
姿勢制御の主役
・現代人で最も弱い筋
意識的な強化が必要

② 前鋸筋下部
肩甲骨の安定
機能不全が多い

「肩甲骨を下げる」意識

日常的に:
肩を下げる意識
胸を開く姿勢
耳と肩の距離を意識
1時間に1回のリセット

その他の関連疾患

① 頚肩腕症候群
・首〜肩〜腕の総合的な不調
・挙上筋の慢性緊張

② 緊張型頭痛
・肩甲挙筋・僧帽筋上部由来
・「肩こり頭痛」

③ 胸郭出口症候群
斜角筋・小胸筋が原因
上肢の痺れ

④ 翼状肩甲(よくじょうけんこう)
前鋸筋の機能不全
・肩甲骨が浮き上がる
長胸神経麻痺

⑤ スカプラディスキネジア
・肩甲骨の動きの異常
・スポーツ選手に多い

セルフチェックと予防ストレッチ

セルフチェック

① 挙上可動域テスト

方法
1. 鏡の前に立つ
2. 両肩をすくめる
3. 耳と肩の距離を確認

評価
耳に近づく:正常(20度)
明らかに上がる:軽度可動
ほとんど動かない:硬化

② 下制可動域テスト

方法
1. 意識的に肩を下げる
2. 首が長く見えるか確認

評価
明らかに下がる:正常
少し下がる:軽度制限
変化なし:要対応

③ 肩こりチェック

肩甲挙筋の触診
1. 首と肩の間を指で押す
2. 硬さ・痛みを確認

僧帽筋上部の触診
1. 肩の上部をつまむ
2. 硬さ・痛みを確認

④ 鏡で肩の高さチェック

両肩の高さを比較:
左右同じ:正常
明らかな左右差:筋緊張の偏り

予防ストレッチ・エクササイズ

① 肩すくめ(基本)

方法
1. 肩を耳に近づける(挙上)
2. 5秒キープ
3. 力を抜いて下ろす(下制)
4. 10回×3セット

効果:挙上筋のリリース+下制の意識づけ。

② 肩甲骨回し

方法
1. 両手を肩に置く
2. 肘で大きな円を描く
3. 前回し10回・後ろ回し10回

効果:肩甲骨の全可動域を動かす。

③ 肩甲挙筋ストレッチ

方法
1. 右手を頭の上に
2. 右斜め下を見る
3. 軽く前に倒す
4. 30秒×3回

効果:肩甲挙筋の伸長。

④ 僧帽筋上部ストレッチ

方法
1. 右手を左耳の上に
2. 頭を右に傾ける
3. 左肩を下げる意識
4. 30秒×3回

⑤ 僧帽筋下部強化(最重要)

方法(Y挙上)
1. うつ伏せに寝る
2. 両腕をYの字に伸ばす
3. 親指を上
4. 10回×3セット

効果:僧帽筋下部の強化(現代人に最も必要)。

⑥ 前鋸筋エクササイズ(プッシュアッププラス)

方法
1. プッシュアップ姿勢
2. 腕は伸ばしたまま
3. 背中を丸める→反らすを繰り返す
4. 10回×3セット

効果:前鋸筋の活性化。

頻度の目安

毎日のケアが推奨。1日5〜10分でも継続することで肩こり予防に絶大な効果。

注意事項
痛みがある場合は中止
慢性化した肩こりは専門家へ
姿勢改善と併用が重要

肩甲骨は「使わなければ硬くなる関節」。日々の小さなケアで一生健康な背中+肩を維持しましょう。

まとめ

肩甲骨の挙上・下制について解説してきた内容を整理します。

肩甲骨の上下動作
・挙上=肩をすくめる動き
・下制=肩を下げる動き
・挙上筋:肩甲挙筋・菱形筋・僧帽筋上部
・下制筋:僧帽筋下部・前鋸筋下部・小胸筋
17個の筋肉が肩甲骨に付着
・正常可動域:挙上20度・下制10度
・主なスポーツ:ショルダーシュラッグ・バックプレス・ボクシング
・現代人の問題:挙上筋優位による肩こり
下制筋(特に僧帽筋下部)の強化が肩こり改善の鍵
「肩を下げる」意識+ストレッチ+強化エクササイズで予防

肩甲骨は「背中の翼」として、私たちの肩こり・姿勢・呼吸・上肢の動きのすべてに関わる重要な骨です。現代人特有の挙上筋優位を改善するため、下制筋の意識的な強化+挙上筋のリリースで一生健康な肩を維持しましょう。

参考文献・出典

・厚生労働省 e-ヘルスネット「肩こり」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/

・日本整形外科学会「肩関節周囲炎」https://www.joa.or.jp/

・日本肩関節学会「肩関節疾患」https://katakansetsu.jp/

・日本理学療法士協会「肩甲骨機能とリハビリ」https://www.japanpt.or.jp/

・rehatora.net「肩甲骨の機能解剖」https://rehatora.net/

関連記事

  1. 頚部の左右回旋とは|働き・関与する筋肉・可動範囲・スポーツ動作を解説

  2. 頚部の左右側屈とは|働き・関与する筋肉・可動範囲・スポーツ動作を解説

  3. 頚部の屈曲・伸展とは|働き・関与する筋肉・可動範囲・スポーツ動作を解説

  4. 肩関節の屈曲・伸展とは|働き・関与する筋肉・可動範囲・スポーツ動作を解説

  5. 肩関節の外転・内転とは|働き・関与する筋肉・可動範囲・スポーツ動作を解説

  6. 肩関節の水平内転・水平外転とは|働き・関与する筋肉・可動範囲を解説

KindleBook

canvas
previous arrow
next arrow