前鋸筋とは|起始停止・神経支配と翼状肩甲・パンチ動作の主役を解説

前鋸筋


前鋸筋の作用と役割(起始停止・神経支配・筋トレメニューなどを徹底解剖)

前鋸筋(ぜんきょきん)とは肩甲骨を前に押し出す働き(肩甲骨外転)がある筋肉で、別名「ボクサー筋」とも呼ばれる、パンチ動作で活躍する重要な筋です。英語では「serratus anterior muscle」と呼ばれます。

前鋸筋は肩甲骨外転の唯一の主役筋であり、また、肩甲骨を胸郭に貼り付けて安定させる「縁の下の力持ち」でもあります。前鋸筋が機能不全になると翼状肩甲(よくじょうけんこうこつ)と呼ばれる特徴的な所見が現れます。

この記事では、次のような疑問にお答えします。

前鋸筋の正しい起始停止・作用は?
翼状肩甲とは何?どうやって判定する?
長胸神経麻痺との関係は?
パンチ・スポーツ動作での役割は?
効果的な鍛え方は?

例え話で言うと、前鋸筋は「肩甲骨を胸郭に貼り付けるテープ」のような存在です。肩甲骨が胸郭から浮き上がらないように常時引きつけ、腕の動きの土台となる肩甲骨の位置を安定させています。

英語名称

serratus anterior muscle(セレタス・アンテリア・マッスル)

「serratus(鋸状の)」+「anterior(前方の)」で構成された名称で、起始部が鋸(のこぎり)の歯のようにギザギザしている形状からこの名がつきました。

前鋸筋の解説

前鋸筋(ぜんきょきん)は肩甲骨の外転に関わる唯一の筋肉で、また、僧帽筋と協同して肩甲骨の上方回旋にも関与します。

前鋸筋は第1〜8(または9)肋骨から起こり、胸郭(きょうかく)の外側面を覆いつつ、後上方に向い、肩甲骨と胸郭の間を通って肩甲骨の内側縁(ないそくえん)に付着する幅広い筋肉です。

前鋸筋の起始部が鋸状(のこぎりじょう)を呈することからこの名称がつけられました。

主な働きは肩甲骨の安定化肩甲帯の外転・上方回旋といった動きに関与します。

翼状肩甲とは|前鋸筋機能不全の特徴的サイン

前鋸筋に何かしらの問題(例えば長胸神経麻痺など)が生じると肩甲骨の安定化が図れなくなり、これに伴い肩関節も一緒に不安定になります。

不安定になることで腕立て伏せや、ボクシングのパンチなどの動作がうまくできなくなるばかりか『肩関節不安定症』や『胸郭出口症候群』を招いてしまう恐れもあります。

腕立て伏せを行うときにしばしば肩甲骨が後方に突き出る『翼状肩甲骨(よくじょうけんこうこつ)』という現象を見かけることがありますが、これは前鋸筋の機能が弱っている証拠です。

判定方法:壁に向かって両手をつき、軽く腕立て伏せをする姿勢を取ります。このとき、肩甲骨が背中から浮き上がるように突き出ていれば翼状肩甲です。

単に前鋸筋が弱化しているだけなら前鋸筋を鍛えるだけで済みますが、長胸神経麻痺(ちょうきょうしんけいまひ)で翼状肩甲骨が起きてしまっているなら前鋸筋の機能不全を疑い、早めに整形外科医に診てもらう必要があります。

長胸神経麻痺との関係

長胸神経は前鋸筋を支配する神経で、中斜角筋を貫通するという特殊な走行をしています。このため、次のような場面で麻痺が起こることがあります:

重いリュックの長時間背負い(リュックサック麻痺)
中斜角筋の過緊張
肩・首の外傷
胸部手術後の合併症

長胸神経麻痺では、前鋸筋単独の麻痺で翼状肩甲が顕著に現れます。原因不明の翼状肩甲は神経内科・整形外科の受診が必要です。

肩甲上腕リズムにおける前鋸筋の役割

腕を頭上に挙げる動作(180度のバンザイ)には、肩関節120度+肩甲骨上方回旋60度の肩甲上腕リズムが必要です。この肩甲骨の上方回旋を担うのが、前鋸筋・僧帽筋上部・僧帽筋下部の3筋の協働です。

前鋸筋が弱化すると肩甲骨の上方回旋が不十分になり、腕がスムーズに挙がらない・肩のインピンジメントを起こすリスクが高まります。

前鋸筋は野球のボールを投げたり、バスケットでシュートする動作のときに大胸筋と共に大きく貢献します。バーベル・ベンチプレスバックプレスを行うことで前鋸筋を鍛えることができますが、ダンベルを持って仰臥位(ぎょうがい)になり、頭上に構えたダンベルを押し上げる様な動作(肩甲骨の外転)を行うことで前鋸筋のみを鍛えることができます。

また、前鋸筋をストレッチするには部屋の角に向いて立ち、両手を肩の高さまで持ち上げて手の平を壁にあてます。両手を伸ばしたまま、顔を壁の角に近づけるようにすることで肩甲骨が内転され、前鋸筋を効率よく引き延ばすことができます。

起始

第1〜8(または9)肋骨の外側面中央部

第1〜9肋骨にかけて鋸歯状(ギザギザ)に起こります。この鋸状の起始がそのまま筋名の由来になっています。

停止

肩甲骨の上角(じょうかく)・下角(かかく)とその間の内側縁(ないそくえん)

肩甲骨の内側縁の全長に停止します。停止部位の広さが、肩甲骨を胸郭に密着させる強力な安定化作用を生んでいます。

前鋸筋の主な働き

肩甲帯の外転 肩甲帯の上方回旋

運動動作においては肩甲帯の外転及び上方回旋、下方回旋、肩甲骨が固定されている場合は肋骨を挙上させる作用があります。

主な役割:

肩甲骨の外転(前方に押し出す):唯一の主要筋
肩甲骨の上方回旋(僧帽筋と協働)
肩甲骨の胸郭への密着(翼状肩甲予防)
パンチ・押す動作のパワー発揮
肋骨の挙上(呼吸補助)

前鋸筋を支配する神経

長胸神経(C5〜C7)

前鋸筋を専門に支配する神経で、中斜角筋を貫通するという特殊な走行をしています。腕神経叢から分岐します。

日常生活動作

腕をより前に押し出すような動きや深く息を吸う動作(吸息)にも関与します。

具体的には:

重いドアを押し開ける動作
ベビーカーや買い物カートを押す動作
子どもを高く持ち上げる動作
腕立て伏せ・プッシュアップ
深呼吸(吸気時の補助)

スポーツ動作

ボクシングや空手など素早いパンチを打つ動作に大きく貢献します。「ボクサー筋」と呼ばれる所以です。

特に重要なスポーツ:
ボクシング・空手・総合格闘技(パンチ)
バレーボール(スパイク)
テニス・バドミントン(サーブ・スマッシュ)
水泳(クロール・バタフライのプル)
野球(投球・打撃)
バスケットボール(シュート)

リーチを最大限活かす「腕を前に伸ばす動作」全般で前鋸筋が活躍します。

関連する疾患

長胸神経麻痺(ちょうきょうしんけいまひ)、胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)、肩関節不安定症(けんかんせつふあんていしょう)

① 長胸神経麻痺・翼状肩甲

長胸神経の損傷で前鋸筋が麻痺し、肩甲骨が背中から浮き上がる「翼状肩甲」を引き起こします。

② 胸郭出口症候群

前鋸筋の機能不全で肩甲骨の位置が悪くなり、腕神経叢・鎖骨下動脈の圧迫を引き起こすことがあります。

③ 肩関節不安定症・インピンジメント

前鋸筋による肩甲骨の安定が失われると、肩関節の動きが不安定になり、インピンジメントやケガのリスクが高まります。

④ 投球障害肩

野球選手で前鋸筋の機能低下があると、投球時に肩甲骨が安定せず、肩を痛める原因に。

⑤ 浅い呼吸・呼吸機能低下

前鋸筋は呼吸補助筋でもあるため、機能低下は呼吸の浅さにもつながります。

代表的なウエイトトレーニングとストレッチ

前鋸筋を効果的に鍛えるポイント

① スキャプラプッシュアップ
通常の腕立て伏せ姿勢から、肘を曲げずに肩甲骨を寄せたり離したりするだけのシンプルな種目。前鋸筋を最も直接的に鍛えられます。10〜15回×3セット。

② ダンベルプンチプレス
仰臥位でダンベルを持ち、肘を伸ばしたまま肩甲骨だけを天井方向に押し上げる動作。前鋸筋のみを集中的に刺激。

③ ウォールスライド
壁に背中を付け、腕をW→Yの形にスライドさせる。前鋸筋+僧帽筋下部を同時に活性化。

④ プランクからのリーチアウト
プランク姿勢から片手を前に伸ばす動作。前鋸筋+体幹を同時に鍛えられます。

⑤ ベンチプレス・プッシュアップ
複合種目でも前鋸筋は活躍しますが、肩甲骨の動きを意識することが大切。

よくある質問(FAQ)

Q1. 翼状肩甲はどう判定する?
壁に手をついた腕立て伏せ姿勢で、肩甲骨が背中から翼のように浮き上がる場合は翼状肩甲です。原因が前鋸筋の弱化なら鍛えれば改善しますが、麻痺の可能性もあるため気になる場合は整形外科を受診してください。

Q2. なぜ前鋸筋は「ボクサー筋」と呼ばれる?
パンチ動作で肩甲骨を最大限に前方に押し出すと、前鋸筋が脇腹の肋骨に沿ってギザギザに浮き出して見えるからです。ボクサーや格闘家の体で印象的に発達する筋です。

Q3. 前鋸筋を鍛えると姿勢は良くなる?
肩甲骨の安定性が高まり、巻き肩・猫背の改善に貢献します。ただし外転だけを過剰に鍛えると逆に巻き肩になることがあるので、僧帽筋中・下部とのバランスが大切。

Q4. 前鋸筋を効率よく鍛えるには?
スキャプラプッシュアップが最もシンプルで効果的。腕立て伏せの姿勢から肩甲骨だけを動かすので、自宅で器具なしで実施できます。

Q5. 長胸神経麻痺はどんな時に起こる?
重いリュックの長時間使用、中斜角筋の過緊張、外傷、胸部手術後などで起こります。原因不明の翼状肩甲が出た場合は早めに整形外科を受診してください。

Q6. 前鋸筋ストレッチのコツは?
壁の角を利用し、両手を肩の高さに当てて顔を角に近づける動作で、左右の肩甲骨が内転して前鋸筋が伸ばされます。デスクワーク後におすすめ。

まとめ

前鋸筋について解説してきた内容を整理します。

第1〜8(9)肋骨外側面から起こり、肩甲骨内側縁に停止
・「ボクサー筋」とも呼ばれ、起始が鋸状でユニーク
・主作用は肩甲骨の外転と上方回旋、胸郭への密着
肩甲骨外転の唯一の主役筋
・支配神経は長胸神経(C5〜C7)、中斜角筋を貫通
・機能不全で翼状肩甲が現れる
スキャプラプッシュアップで効率よく鍛えられる
・パンチ・押す動作・呼吸補助で活躍

前鋸筋は普段意識されない筋ですが、肩甲骨の安定と腕の前方への動作に必須の重要筋です。翼状肩甲が気になる方、スポーツでパフォーマンスを上げたい方は、ぜひ前鋸筋の活性化を意識してみてください。

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その他の肩部・背部の筋肉

三角筋広背筋大円筋ローテーターカフ(小円筋棘上筋棘下筋肩甲下筋)・僧帽筋(僧帽筋上部線維僧帽筋中部線維僧帽筋下部線維)・外内肋間筋肩甲挙筋菱形筋群(大菱形筋小菱形筋)】

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前鋸筋クイズ(全7問)

起始・停止・神経支配などを4択で確認。覚えたかチェックしよう。

参考文献・出典

・Wikipedia「前鋸筋」https://ja.wikipedia.org/wiki/前鋸筋

・看護roo!「前鋸筋」https://www.kango-roo.com/word/19990

・日本整形外科学会「胸郭出口症候群」https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/thoracic_outlet_syndrome.html

・rehatora.net「前鋸筋の解剖と機能・触診」https://rehatora.net/

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