肩甲骨の内転・外転とは
肩甲骨を脊柱(内側)に引き寄せる動作を内転(伸展)といいます。
肩甲骨の内転に関わる代表的な筋肉として大菱形筋・小菱形筋・僧帽筋中部・僧帽筋上部・僧帽筋下部などがあげられます。
この記事では、次のような疑問にお答えします。
・肩甲骨の内転・外転とは?
・どの筋肉が関わる?
・正常な可動範囲は?
・猫背・巻き肩との関係は?
例え話で言うと、肩甲骨の内転・外転は「胸を開く・閉じる肩甲骨の動き」です。内転=胸を張る(鳩胸)動作、外転=胸を閉じる(猫背)動作。日常生活で姿勢の良し悪しを決定する最重要な動きです。
内転と外転の意味|胸郭面に沿った水平動作
肩甲骨の内転・外転は胸郭の表面に沿った水平動作:
内転(伸展)の動き:
① 肩甲骨を脊柱に近づける
両肩甲骨が背骨側に集まる。
② 「胸を張る」姿勢
・胸が前に出る
・肩が後ろに引かれる
・正しい姿勢
③ 日常例
・気をつけ姿勢
・胸を張る動作
・万歳の途中
外転(屈曲)の動き:
① 肩甲骨を脊柱から離す
両肩甲骨が脇側に開く。
② 「胸を閉じる」姿勢
・胸が小さくなる
・肩が前に出る
・猫背・巻き肩
③ 日常例
・パソコン作業
・スマホ操作
・物を抱える動作
姿勢との直結関係:
肩甲骨の位置は姿勢の根本を決めます:
① 内転位=良い姿勢
・胸が開いている
・呼吸が深い
・自信に満ちた印象
② 外転位=悪い姿勢
・胸が閉じている
・呼吸が浅い
・疲れた印象
このため、肩甲骨の内転・外転のバランスが姿勢改善の鍵となります。
「胸を張る」の科学:
「胸を張りなさい」と言われる理由:
① 肩甲骨内転
・菱形筋・僧帽筋中部の活動
② 胸郭の拡張
・深い呼吸
・酸素摂取量増加
③ 自律神経の安定
・副交感神経優位
・リラックス効果
④ 見た目の改善
・若々しい印象
・自信のある姿勢
「胸を張る」は身体と心の両方に良い影響を与える動作です。
肩甲骨の内転・外転に関与する筋肉
内転:大菱形筋・小菱形筋・僧帽筋中部・僧帽筋上部・僧帽筋下部
内転に関与する筋肉の詳細:
① 大菱形筋(だいりょうけいきん)
・胸椎〜肩甲骨内側縁下部
・内転の主役
・「胸を張る」筋
② 小菱形筋(しょうりょうけいきん)
・頚椎〜肩甲骨内側縁上部
・大菱形筋の上に位置
・内転+わずかな挙上
③ 僧帽筋中部
・胸椎中部〜肩甲棘
・「水平方向の内転」主役
・現代人で最弱の筋
④ 僧帽筋上部
・後頭骨・頚椎〜鎖骨外側
・挙上+わずかな内転
⑤ 僧帽筋下部
・胸椎下部〜肩甲棘
・下制+上方回旋+内転
外転に関与する筋肉の詳細:
① 前鋸筋(ぜんきょきん)
・肋骨〜肩甲骨内側縁前面
・外転の主役
・「ボクサー筋」
② 小胸筋
・肋骨〜烏口突起
・外転+下方回旋+前傾
・巻き肩の原因筋
「胸を閉じる」現代人の問題:
現代人の生活スタイルでは外転筋(前鋸筋+小胸筋)優位になりがち:
外転位の継続:
・パソコン=両手が前
・スマホ=両手が前
・運転=両手が前
・読書=両手が前
→ 1日中外転位
これにより:
・前鋸筋・小胸筋=硬く短縮
・菱形筋・僧帽筋中部=伸ばされて機能低下
・巻き肩・猫背の完成




可動範囲
内転:0〜20°
外転:0〜20°
可動範囲の詳細:
内転:
・0〜20度
・約5cm程度の移動距離
・両肩甲骨が背骨に近づく
外転:
・0〜20度
・約5cm程度の移動距離
・両肩甲骨が外側に離れる
内転と外転の対称性:
両者は同じ可動範囲を持ちますが、現代人は外転位に偏っているため:
① 内転制限
・菱形筋・僧帽筋中部の機能低下
・背中を寄せられない
② 外転過多
・前鋸筋・小胸筋の短縮
・巻き肩
理想は左右対称+中立位を保つこと。
年齢別の目安:
内転:
・20代:20度
・40代:15〜20度
・60代:10〜15度
・80代:5〜15度
外転:
・20代:20度
・40代:20度(むしろ過剰)
・60代:20度
・80代:20度
外転は加齢でも維持されやすい(むしろ常に外転位)。
制限の意味:
可動範囲の低下は:
・巻き肩・猫背
・菱形筋・僧帽筋中部の機能不全
・肩こり・首こり
・呼吸の浅さ
を示唆します。
肩甲骨の全可動範囲一覧:
・挙上:0〜20度
・下制:0〜10度
・内転:0〜20度(本記事)
・外転:0〜20度(本記事)
・上方回旋:0〜60度
・下方回旋:0〜60度




主な運動、スポーツ動作
バーベル・ベンチプレス・野球の投球動作・ボクシング・レスリング
各種目での役割:
① バーベル・ベンチプレス
・下降時=肩甲骨内転(胸を張る)
・挙上時=肩甲骨外転
・正しいフォームの鍵
② 野球の投球動作
・テイクバック=内転(胸を張る)
・リリース=外転(前鋸筋活動)
・フォロースルー=最大外転
③ ボクシング
・パンチ=外転(前に押し出す)
・ガード=内転(防御姿勢)
④ レスリング・柔道
・組み手=内転・外転の切り替え
・引き寄せ=内転
その他の重要なスポーツ:
⑤ ロウイング(ボート)
・引く動作で内転
・戻す動作で外転
⑥ 水泳(自由形)
・キャッチ=外転
・プル=内転
⑦ ゴルフ
・テイクバック=両肩の協調
・インパクト=外転(押し出し)
⑧ クライミング
・引き寄せ=内転
・到達=外転
⑨ バスケットボール
・シュート=外転(押し出し)
・パス=外転
⑩ ヨガ・ピラティス
・多様な肩甲骨ポジション
・姿勢改善
日常生活でもパソコン・スマホ・運転・抱きしめる動作で頻繁に使われます(多くは外転位)。
猫背・巻き肩と肩甲骨外転|現代人の最大の問題
肩甲骨の最大の問題が「猫背・巻き肩」です:
猫背・巻き肩の解剖学的特徴:
① 肩甲骨の位置異常
・外転位(脇側に開く)
・前傾位(前に傾く)
・下方回旋
② 筋バランスの崩壊
・短縮:前鋸筋・小胸筋・大胸筋
・伸長:菱形筋・僧帽筋中部下部
③ 胸郭の硬化
・胸が閉じる
・呼吸の浅さ
現代人の8割が該当:
日本人の約7〜8割が猫背・巻き肩傾向:
① 子供から始まる
・ゲーム・タブレット
・勉強姿勢
・スマホ早期使用
② 大人で完成
・長時間のデスクワーク
・運動不足
・ストレス
③ 高齢で固定化
・骨格の変形
・円背
・不可逆的
猫背・巻き肩の悪影響:
① 肩こり・首こり
・菱形筋・僧帽筋の慢性疲労
・「現代人の国民病」
② 呼吸の浅さ
・胸郭の動き制限
・慢性的な酸欠
・疲労感
③ 肩関節障害
・インピンジメント
・四十肩・五十肩
・腱板炎
④ 頚椎症
・ストレートネックと連鎖
・頚椎への負担
⑤ 自律神経の乱れ
・交感神経優位
・不眠・うつ
⑥ 内臓圧迫
・消化不良
・胃食道逆流
⑦ 見た目の老化
・10歳以上老けて見える
・自信なさげな印象
「鎖骨の角度」セルフチェック:
猫背・巻き肩の簡易チェック:
方法:
1. 鏡の前で正面を向く
2. 両鎖骨を観察
評価:
・水平な「一」字:正常
・「ハ」の字(外側下がり):軽度猫背
・明らかな「ハ」の字:重度猫背
仰向けチェック:
方法:
1. 仰向けに寝る
2. 肩が床につくか確認
評価:
・完全に床につく:正常
・肩が浮く:巻き肩
・強い浮き上がり:要対応
改善法:
① 内転筋強化(最重要)
・菱形筋・僧帽筋中部の強化
・「胸を張る」動作
② 外転筋ストレッチ
・前鋸筋・小胸筋のリリース
・「胸を開く」ストレッチ
③ 大胸筋ストレッチ
・胸の前面を伸ばす
・ドアフレームストレッチ
④ 姿勢意識
・1時間に1回の姿勢リセット
・胸を張る意識
⑤ 環境改善
・モニター位置調整
・適切な椅子
・立ち作業の導入
セルフチェックと予防エクササイズ
セルフチェック:
① 内転可動域テスト
方法:
1. 胸を張る姿勢を取る
2. 両肩甲骨を背中で寄せる
3. 鉛筆が挟めるか確認
評価:
・鉛筆がしっかり挟まる:正常
・少し挟まる:軽度制限
・挟まらない:要対応
② 外転可動域テスト
方法:
1. 両腕を前に伸ばす
2. 身体ごと前に伸ばす
3. 肩甲骨が外側に開くか
評価:
・明らかに開く:正常
・少し開く:軽度制限
・動かない:要対応
③ 鎖骨の角度チェック
前述の通り、鏡で鎖骨を確認。
④ 仰向け肩チェック
前述の通り、肩が床につくか確認。
予防エクササイズ:
① 肩甲骨寄せ(基本・内転強化)
方法:
1. 椅子に背筋を伸ばして座る
2. 両肩甲骨を背中で寄せる
3. 5秒キープ
4. ゆっくり戻す
5. 10回×3セット
効果:菱形筋・僧帽筋中部の活性化。
② Y-T-W-Lエクササイズ(姿勢改善)
方法:
1. うつ伏せ
2. 両腕をY字=僧帽筋下部
3. 両腕をT字=僧帽筋中部
4. 両腕をW字=菱形筋
5. 両腕をL字=外旋筋
6. 各10回×3セット
効果:肩甲骨内転筋+外旋筋の総合強化。
③ バンドプル・アパート
方法:
1. セラバンドを両手で持つ
2. 水平に保つ
3. 真横に引っ張る(肩甲骨内転)
4. 10〜15回×3セット
効果:菱形筋+僧帽筋中部の強化。
④ 小胸筋ストレッチ
方法:
1. ドアフレームに肘をつく
2. 身体を前に傾ける
3. 胸の前面の伸び
4. 30秒×3回
効果:外転筋(小胸筋)の柔軟性。
⑤ 大胸筋ストレッチ
方法:
1. 壁に手をつく
2. 身体を反対側に回す
3. 胸の伸び
4. 30秒×3回×左右
⑥ 肩甲骨回し
方法:
1. 両手を肩に
2. 大きな円を描く
3. 前回し・後ろ回し各10回
頻度の目安:
毎日のケアが推奨。朝・夜の5〜10分でも継続することで猫背・巻き肩予防に絶大な効果。
「胸を張る」意識:
エクササイズだけでなく、日常での意識が重要:
・歩く時:胸を張る
・座る時:肩甲骨を背中に寄せる
・立つ時:耳と肩の距離を意識
・1時間に1回:姿勢リセット
注意事項:
・痛みがある場合は中止
・慢性的な姿勢はゆっくり改善
・整形外科・理学療法士での相談も有効
肩甲骨の内転・外転バランスは姿勢の根本。日々の小さな意識+エクササイズで、胸を張った美しい姿勢を取り戻しましょう。
まとめ
肩甲骨の内転・外転について解説してきた内容を整理します。
・胸郭面に沿った水平動作
・内転=胸を張る動き(肩甲骨を背骨側に)
・外転=胸を閉じる動き(肩甲骨を脇側に)
・内転筋:大菱形筋・小菱形筋・僧帽筋(上・中・下部)
・外転筋:前鋸筋・小胸筋
・正常可動域:内転・外転ともに0〜20度
・主なスポーツ:ベンチプレス・投球・ボクシング・レスリング
・現代人の問題:外転筋優位による猫背・巻き肩
・菱形筋・僧帽筋中部の強化が姿勢改善の鍵
・「胸を張る」意識+エクササイズで予防
肩甲骨の内転・外転は「胸を開く・閉じる肩甲骨の動き」として、私たちの姿勢・呼吸・印象のすべてを決定する重要な動作です。現代人特有の外転筋優位(猫背・巻き肩)を改善するため、内転筋の意識的な強化+外転筋のストレッチで、若々しく自信に満ちた姿勢を取り戻しましょう。
参考文献・出典
・厚生労働省 e-ヘルスネット「肩こり」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
・日本整形外科学会「肩関節周囲炎」https://www.joa.or.jp/
・日本肩関節学会「肩関節疾患」https://katakansetsu.jp/
・日本理学療法士協会「姿勢と肩甲骨」https://www.japanpt.or.jp/
・rehatora.net「肩甲骨の機能解剖」https://rehatora.net/










