股関節の外転・内転とは
図のように側方に大腿部を挙上する動作を外転といいます。
股関節の外転に関わる代表的な筋肉として中臀筋・小臀筋・大腿筋膜張筋・大臀筋などがあげられます。
これら外転に関わる筋肉はまとめて外転筋群とも呼ばれることもあります。
単に大腿部を側方に挙上させるだけでなく、骨盤の左右の安定性をはかる筋肉でもあります。
内転は外転された大腿部を下垂状態に戻すことをいいます。
内転に関わる代表的な筋肉として大内転筋・長内転筋・短内転筋・恥骨筋・薄筋などがあげられますが、これらの筋肉は外転筋の拮抗筋として片足で立ったときの左右のバランスをとる働きを担っています。
- 直立姿勢に於いては抵抗が加えられていない限りは股関節の内転(0度まで)を引き起こすのはあくまでも重力です。
このとき中臀筋・大腿筋膜張筋などはエクセントリックにまたはアイソメトリックに活動しています。
この記事では、次のような疑問にお答えします。
・股関節の外転・内転とは?
・どの筋肉が関わる?
・正常な可動範囲は?
・骨盤の安定との関係は?
例え話で言うと、股関節の外転・内転は「片足立ちのバランサー」です。歩行・走行時の片足支持期に骨盤の傾きを防ぎ、私たちが二足歩行できる根本を支える重要な動作です。
中臀筋と「トレンデレンブルグ徴候」|骨盤安定の鍵
股関節外転筋の中でも「中臀筋」は特別な存在:
中臀筋の重要な役割:
① 単独動作としての外転
・側方への大腿挙上
・最大の外転筋
② 片足立ちでの骨盤安定
・歩行時の片足支持期
・骨盤が反対側に倒れないように
・「トレンデレンブルグ徴候」の予防
「片足立ちの仕組み」:
歩行は「左右の片足立ちの連続」:
① 片足立ちの瞬間
・体重が片足にかかる
・反対側の骨盤が下がろうとする
・中臀筋が引っ張り上げる
② 中臀筋が機能不全だと
・反対側の骨盤が下がる
・「トレンデレンブルグ徴候」
・「跛行」(足を引きずる)
「トレンデレンブルグ徴候」とは:
中臀筋の機能不全による典型的な歩行異常:
① 片足立ちで反対側の骨盤が下がる
② 上体が支持側に傾く(代償動作)
③ 「ヨタヨタ歩き」になる
原因:
・変形性股関節症
・中臀筋の筋力低下
・大腿骨頭壊死症
・先天性股関節脱臼後
「歩行の科学」:
歩行中、体重の3〜4倍の負荷が支持側の股関節にかかります。中臀筋はこの巨大な力に抵抗して骨盤を水平に保つ「縁の下の力持ち」です。
中臀筋の重要性のまとめ:
・歩行・走行の基盤
・骨盤の水平保持
・膝・腰への負担軽減
・姿勢の安定
・転倒予防
中臀筋を鍛えることは「歩く能力を一生維持する」ことに直結します。
股関節の外転・内転に関与する筋肉
内転:内転筋群(大内転筋・長内転筋・短内転筋・恥骨筋・薄筋)
外転に関与する筋肉の詳細:
① 中臀筋(ちゅうでんきん)
・骨盤外側
・外転の主役
・骨盤の安定に最重要
② 小臀筋(しょうでんきん)
・中臀筋の下層
・外転+内旋
・補助筋
③ 大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)
・骨盤前外側
・外転+屈曲+内旋
・腸脛靭帯に停止
④ 大臀筋(だいでんきん)
・お尻の最大筋
・主に伸展
・上部繊維が外転に関与
「外転筋の3兄弟」:
主要な外転筋3つ:
・中臀筋=メイン
・小臀筋=サブ
・大腿筋膜張筋=補助
これらが協調して骨盤の左右安定を実現します。
内転に関与する筋肉の詳細:
① 大内転筋(だいないてんきん)
・内転筋群の最大筋
・大臀筋に次ぐ大きさ
・内転+伸展
② 長内転筋(ちょうないてんきん)
・内転筋群の中央
・内転+わずかな屈曲
・スポーツで負傷しやすい
③ 短内転筋(たんないてんきん)
・長内転筋の下層
・内転+屈曲
・小さな筋
④ 恥骨筋(ちこつきん)
・内転筋群最上部
・内転+屈曲
・腸腰筋に近い位置
⑤ 薄筋(はっきん)
・内転筋群で最も長い
・二関節筋
・内転+膝関節屈曲
「内転筋群」の5筋構造:
これら5筋を総称して「内転筋群」。
位置関係:
・外側:恥骨筋・長内転筋
・中間:短内転筋
・深層:大内転筋
・最内側:薄筋
「内転筋群の機能」:
内転筋群は外転筋の拮抗筋として:
・骨盤の左右安定
・片足立ちでの逆方向の力
・歩行時の片足支持期
・姿勢制御
外転筋+内転筋の「綱引き」で骨盤が水平に保たれます。
「内股」「O脚」との関連:
外転筋と内転筋のバランスが崩れると:
内股(X脚傾向):
・内転筋優位
・外転筋(中臀筋)弱化
・女性に多い
O脚:
・外転筋優位
・内転筋弱化
・骨盤の歪みも関連
理想は「左右バランス」です。




可動範囲
外転:0〜45°
内転:0〜20°
可動範囲の詳細:
外転:
・0〜45度
・大腿部を真横に挙上
・解剖学的制限あり
内転:
・0〜20度
・反対側の足を越えて
・外転の約半分
「内転の意味」:
ここでの「内転0〜20度」とは:
① 解剖学的肢位(中立位)から
② 反対側の足を越えて
③ さらに内側に20度
例:右足を左足の前を通って20度。
「外転>内転」の理由:
① 解剖学的制限
・反対側の足が物理的な障害物
・大きな内転は反対側の足に当たる
② 機能的意味
・歩行で大きな外転は不要
・横方向の安定を保つ
年齢別の目安:
外転:
・20代:45度
・40代:40〜45度
・60代:30〜40度
・80代:25〜35度
内転:
・20代:20度
・40代:15〜20度
・60代:10〜15度
・80代:5〜15度
制限の意味:
可動範囲の低下は:
・変形性股関節症
・中臀筋・内転筋の機能不全
・股関節の硬化
・骨盤の歪み
を示唆します。
左右差の重要性:
外転・内転の左右差5度以上は要注意:
・骨盤の歪み
・足長差
・側弯症
・慢性腰痛の原因
股関節の全可動範囲一覧:
・屈曲:0〜90度(膝屈曲位125度)
・伸展:0〜15度
・外転:0〜45度(本記事)
・内転:0〜20度(本記事)
・外旋:0〜45度
・内旋:0〜45度




主な運動、スポーツ動作
ヒップアダクション・ヒップアブダクション・スケート・サッカー・空手
各種目での役割:
① ヒップアブダクション(外転)
・外転の専門トレーニング
・中臀筋・小臀筋強化
・骨盤の安定
② ヒップアダクション(内転)
・内転の専門トレーニング
・内転筋群強化
・内ももの引き締め
③ スケート
・外転+蹴り出し
・大臀筋+中臀筋+内転筋
・体重移動
④ サッカー
・サイドステップ=外転
・インサイドキック=内転
・グロインペイン症候群(内転筋障害)に注意
⑤ 空手
・横蹴り=外転
・蹴り戻し=内転
・柔軟性が必要
その他の重要なスポーツ:
⑥ ダンス・バレエ
・最大外転(脚を真横に上げる)
・柔軟性が表現の幅
⑦ 新体操・フィギュアスケート
・大きな外転
・180度開脚など
⑧ 武道(テコンドー)
・横蹴り技
・回し蹴りでの外転
⑨ クロスカントリースキー
・スケーティング走法
・外転筋の連続使用
⑩ 乗馬
・内転筋で馬を挟む
・骨盤の安定
⑪ 水泳(平泳ぎ)
・キック動作
・内転筋の活躍
⑫ ヨガ
・多様な外転・内転ポーズ
・柔軟性向上
日常生活でも歩行(片足支持期)・階段の上り下り・座る・横を向くなどで使われます。
中臀筋機能低下と現代人の問題|「お尻のサボり病」
現代人の最大の問題が「中臀筋機能低下」:
「中臀筋機能低下」とは
中臀筋が使われずに弱化した状態:
① 「お尻のサボり病」
・長時間座位での圧迫
・運動不足
・大腿筋膜張筋による代償
② 「グルートアムネジア」
・お尻の使い方を忘れる
・脳と筋の連絡が弱まる
・神経筋の機能低下
中臀筋機能低下の症状:
① 歩行異常
・トレンデレンブルグ徴候
・跛行(足を引きずる)
・骨盤の左右動揺
② 腰痛
・骨盤の不安定
・腰椎への過剰負担
・慢性腰痛の原因
③ 膝痛
・大腿骨内旋+膝の内反
・変形性膝関節症
・腸脛靭帯炎
④ 足首の問題
・足首の過回内
・偏平足
⑤ 姿勢の崩れ
・骨盤の傾き
・反り腰・猫背
関連する障害:
① 中臀筋腱炎
・中臀筋付着部の炎症
・「臀部の痛み」
・中高年女性に多い
② 腸脛靭帯炎(ランナー膝)
・大腿筋膜張筋+腸脛靭帯の過緊張
・膝外側の痛み
・ランナーに多発
③ グロインペイン症候群
・鼠径部痛
・内転筋の障害
・サッカー選手に多発
④ 内転筋肉離れ
・急性損傷
・長内転筋に多い
・スポーツでの過伸展
⑤ 弾発股
・大腿筋膜張筋+腸脛靭帯のひっかかり
・「コリッ」と音
⑥ 変形性股関節症
・慢性的な筋バランスの崩壊
・軟骨摩耗
「現代人を蝕む座位生活」:
長時間の座位は中臀筋に最悪:
① 圧迫による血流不良
・お尻が固くなる
・筋活動低下
② 屈曲位による腸腰筋短縮
・拮抗筋の硬化
・連鎖的な機能低下
③ 立位時の不使用
・姿勢悪く立つ
・体重がかかってもサボる
「中臀筋を目覚めさせる」必要性:
現代人は意識的に中臀筋を活性化する必要があります:
① 中臀筋活性化エクササイズ
・クラムシェル
・サイドレッグレイズ
・サイドプランク
② 立位での意識
・お尻をキュッと締める
・骨盤を水平に
③ 歩行での意識
・正しい片足立ち
・骨盤を傾けない
予防と改善:
① 中臀筋強化
・クラムシェル
・サイドレッグレイズ
・シングルレッグスクワット
② 内転筋強化
・ボールスクイーズ
・サイドランジ
③ 大腿筋膜張筋ストレッチ
・腸脛靭帯のリリース
・代償動作の防止
④ 歩行フォームの修正
・骨盤を水平に
・大臀筋+中臀筋を使う
⑤ 長時間座位の解消
・1時間に1回立つ
・座位の見直し
⑥ 早期受診
・慢性的な股関節痛
・歩行異常
・整形外科へ
セルフチェックと予防エクササイズ
セルフチェック:
① 外転可動域テスト
方法:
1. 仰向け
2. 片足を真横に開く
3. 角度を測る
評価:
・45度開く:正常
・30〜40度:軽度制限
・30度未満:要対応
② 内転可動域テスト
方法:
1. 仰向け
2. 反対側の足の上を通って
3. 内側に動かす
評価:
・20度内転:正常
・10〜15度:軽度制限
・10度未満:要対応
③ 片足立ちテスト(トレンデレンブルグ)
方法:
1. 鏡の前に立つ
2. 片足を上げる
3. 骨盤の傾きを確認
評価:
・骨盤が水平:正常
・反対側の骨盤が下がる:中臀筋機能低下
・明らかに傾く:トレンデレンブルグ陽性
④ 片足立ち保持テスト
方法:
1. 片足立ち
2. 目を開けたまま
3. 何秒保てるか
評価:
・60秒以上:正常
・30〜60秒:要注意
・30秒未満:バランス能力低下
予防エクササイズ:
① クラムシェル(中臀筋活性化)
方法:
1. 横向きに寝る
2. 膝を曲げる
3. 上の膝を開く(貝のように)
4. 10回×3セット×左右
効果:中臀筋の活性化。
② サイドレッグレイズ
方法:
1. 横向きに寝る
2. 上の足を伸ばしたまま上に
3. 15回×3セット×左右
効果:中臀筋+小臀筋強化。
③ ヒップアブダクションマシン
方法:
1. マシンに座る
2. 両足を外側に開く
3. 15回×3セット
効果:外転筋の総合強化。
④ ボールスクイーズ(内転筋強化)
方法:
1. 仰向け+膝立て
2. 膝の間にボールを挟む
3. 5秒キープ
4. 15回×3セット
効果:内転筋群の強化。
⑤ サイドランジ
方法:
1. 足を肩幅の2倍に開く
2. 片方の膝を曲げる
3. もう片方は伸ばす
4. 10回×3セット×左右
効果:内転筋+外転筋の協調強化。
⑥ シングルレッグスクワット
方法:
1. 片足立ち
2. ゆっくりしゃがむ
3. 骨盤を水平に保つ
4. 5回×3セット×左右
効果:中臀筋+全身協調。
頻度の目安:
週3〜5回のエクササイズが推奨。クラムシェルは毎日でも可。
注意事項:
・変形性股関節症がある場合は専門医指導下で
・痛みがある場合は中止
・段階的に負荷を上げる
中臀筋は「歩く能力を一生維持する」ための最重要筋。日々の小さなケアで一生使える股関節を維持しましょう。
まとめ
股関節の外転・内転について解説してきた内容を整理します。
・冠状面での横方向の動き
・外転=側方への大腿挙上
・内転=中央方向への戻し
・外転筋:中臀筋・小臀筋・大腿筋膜張筋・大臀筋
・内転筋:内転筋群5筋(大内転筋・長内転筋・短内転筋・恥骨筋・薄筋)
・中臀筋が骨盤安定の鍵
・トレンデレンブルグ徴候=中臀筋機能不全
・歩行の片足支持期で重要
・正常可動域:外転45度・内転20度
・主なスポーツ:ヒップアブダクション・スケート・サッカー・空手
・現代人の問題:中臀筋機能低下(お尻のサボり病)
・クラムシェル+中臀筋活性化で予防
股関節の外転・内転は「片足立ちのバランサー」として、私たちの歩行・走行・姿勢のすべてを支える重要な動作です。中臀筋の活性化+内転筋とのバランスで、一生健康に歩ける股関節を維持しましょう。
参考文献・出典
・厚生労働省 e-ヘルスネット「ロコモティブシンドローム」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
・日本整形外科学会「変形性股関節症」https://www.joa.or.jp/
・日本股関節学会「股関節疾患」http://www.hipjoint.jp/
・日本理学療法士協会「股関節リハビリテーション」https://www.japanpt.or.jp/
・rehatora.net「股関節の機能解剖」https://rehatora.net/










